この記事は、「広告会社はITの新興企業に学ぶべき時」の内容をもとに、筆者が「宣伝会議」9月1日号特集用に書き下ろしたものです。
世界中の広告業界が転換期を迎えている
“What’s the Big Idea?” 「ビッグアイデアは何か?」
“What’s the story? What’s the message?” 「何が言いたいのか?何を伝えるのか?」
これは欧米の広告業界で仕事をしていると、毎日何度も繰り返される質問だ。僕もこの言葉は数限りなく自分に問いかけてきたし、また一緒に仕事をしている人達にも毎日問いかけている。
2011年の今現在、日本だけに限らず世界の広告業界は絶大な転換期を迎えている。
1990年代後半、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)というテクノロジーがものすごい勢いでこの世の中の情報交換の仕組みに大革命を起こした。それから10年以上経った今、人とのつながりの仕組みも大きな変化を遂げており、人間の基本的な行動自体も変化しつつある。赤の他人と友達になったり、「おやすみ」や「お腹すいた……」などの報告を世界中のみんなにするといった行動は、ひと昔前までは考えられなかったことだ。
また広告業界の中で考えるとクライアントの意識もかなり変化している。
“We are not in the business of keeping media companies alive.”
― Trevor Edwards, CMO, Nike
「当社のビジネスは、メディア会社を生きながらえさせることではありません」
―トレバー・エドワーズ ナイキCMO(最高マーケティング責任者)
広告会社の生命線であるクライアントがこういう、ある意味では恐ろしいことをここ数年数々口にしている。テクノロジーが人類に与えている影響、またこの業界に強いている変化は、広告会社にとってはかなりの危機感をもたらしているはずだ。
500年以上ブランド成り立たせてきた方程式
ただ、僕はこれが悪いことではなく、「500年に一度のチャンス」だと考えている。
50年ほど前、1960年代のアメリカでは広告業界の“Creative Revolution”(クリエイティブ革命)が盛んであり、ある手法が生み出された。
まず宣伝する製品、サービスの「真実」とコンシューマーの「インサイト」を探るところから始まる。それに基づき「ストーリー/アイデア」を出す。そこから印刷、テレビ、今ではネット、ソーシャルメディアなどいろいろなメディアに表現を落としていき、コンシューマーに伝え、その結果製品、サービスの売り上げに……という具合に。
しかしもっと昔にさかのぼってみると、実は500年以上前の1460年前後にこの手法の根源がある。
その時代、グーテンベルグが印刷技術を発明する。この技術がマスメディアの出発点になり、現代の広告手法の基礎になっている。キリスト教の普及の成功はここにあり、「聖書」は人類史上最もすぐれた「広告」の一つである。
つまりこういうことだ。サービスの「真実」は「神の存在」。「イエス・キリストは神の子」であり「十二使徒」がいるという「ストーリー」。そして「聖書」という印刷媒体を使い「ストーリー」を人々に伝える。その結果教えが広まり、キリスト教という「ブランド」が成り立っていった。
そしてここ500年以上、「真実」を探り「ストーリー」をつくり、あらゆるテクノロジーを「メディア」として使い「ブランド」を成り立たせるという方法が「方程式」化しているのだ。(次のページへ続く)