顧客ロイヤリティを経営の最重要課題にすべき時代
ソーシャルメディアを先進的に活用している企業には共通の特徴がある。本質的な顧客志向を持ち、挑戦を重んじる社風が根づいているという点だ。逆に言うと、一般的な企業は「顧客より社内規律」を重んじ、「チャレンジよりリスク回避」を重んじる傾向が強い。そのために両刃の剣となるソーシャルメディア活用を躊躇しているケースが多いように感じられる。
ソーシャルメディアを能動的に活用するか、受動的に活用するかは、そのブランドの個性や商品特性、社風などを考慮して個別判断すべきことだ。だが大切なことは、すでにあらゆるブランドがソーシャルメディア上で語られており、近い将来、そこでのクチコミが事業の成否すら決定するほど重要になるということだ。これは企業がコントロールできることではない。つまり企業判断が入る余地はないことなのだ。
生活者に共感される企業、愛されるブランドになること。手段は企業によって異なるが、顧客ロイヤリティを経営の最重要課題とすべき時代が到来した。これからは、ブランドを広く告げる役割も、メディアから生活者に徐々にうつっていくだろう。ソーシャルメディア上でポジティブなクチコミを発生させる原動力は、ソーシャルメディアを巧みに活用する術ではなく、ブランドが顧客に提供する体験そのものだ。生活者に競合他社よりも素晴らしいブランド体験、おもてなしを提供できるか。そこが勝負の分かれ目となる。
日本がバブル絶頂期にあった1980年代、CI(コーポレート・アイデンティティ)ブームが企業を席巻した。当時、CIには三つのアイデンティティ、すなわちMI(マインド・アイデンティティ)、BI(ビヘイビア・アイデンティティ)、そしてVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)の三要素があると言われた。CIブームはバブル時代の象徴となり、次々とデザイン変更をする企業が登場したが、真摯にMIやBIを行うところは少なく、多くの企業はVI、すなわちロゴなどの見た目を中心にした改善にとどまった。マークを変えれば企業の業績が上がる。そんな安易な発想でブームに乗ったが、コストの割に効果がないことが明確になった。
社員が自律的に判断し、顧客の期待を上回るサービスを提供する
本コラムで説く「ソーシャルシフト」は、顧客に素晴らしいブランド体験を提供するために、統一性のあるアイデンティティを構築することを目指すものだ。その点では、ソーシャル時代のネオCIと言えるかも知れない。しかし目指す企業像は異なる。CIがどちらかというと全体的な統一感を目指していたに対して、ネオCIでは共有された価値観のもとで個人個人が自律的に判断してすることを志すものだからだ。
Webサイト、広告、販促用印刷物、店頭、販売担当員、サービス品質、カスタマーサービス。そしてソーシャルメディア。すべての顧客接点において、社員が自律的に判断し、お客様の事前期待を上回るサービスを提供できるような企業像。自らの会社の現実を振り返れば、理想とのギャップにため息が出てしまう方も多いかも知れない。どうすれば、あなたの会社を変革することができるのだろうか。それもボトムアップ、現場主導でソーシャルシフトするためには、どのような方法が可能なのだろうか。
その具体的なステップは次の通りだ。
- まずソーシャルシフトの必要性をトップに認知してもらい、プロジェクトを発足させる
- ブランドとして「あるべき姿」を部門横断で検討、ブランドの哲学を練り上げる
- ブランドの顧客接点を調査し、優先度を決定。「あるべき姿」に従い、現場を改善する
- ソーシャルメディア運用の組織を立ち上げ、生活者とオープンに対話できる場をつくる
- 顧客の声に基づき、全社的なフィードバック・ループを構築。弛まぬ改善活動を行う
- 社員の幸せと顧客の感動を尊ぶ社風を醸成する。そのための仕組みを構築する
実際の推進にあたっては、これら6つのステップのうち、2~5は同時並行的に実施することになるはずだ。
斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー
- 第6回 ソーシャルメディアは、生活者、社員、経営者を結ぶ情報パイプライン(10/24)
- 第5回 大企業におけるオープン・リーダーシップ(10/17)
- 第4回 企業の哲学が問われる時代 (10/11)
- 第3回 透明性の時代。企業と生活者、新しいコミュニケーションのカタチ (10/3)
- 第2回 米国先進企業に学ぶ、透明性の時代におけるオープン・コミュニケーション (9/26)
- 第1回 テレビより前にソーシャルメディアが報じていた、九電やらせメール事件 (9/12)