ストック型とフロー型。コンテンツ軸の性質を知って変幻自在に使いこなそう―源氏物語からニコ動まで。コンテンツを分類する3次元マトリックス(1)

さて次は、フロー型のコンテンツです。これは、ストック型の逆で、「鮮度が生命」のまさしく生鮮食料品のような「今、この瞬間」が勝負のコンテンツです。Twitter上に流れるニュース記事の見出しがその典型ですし、もう少し広く例を取れば、新聞やテレビに出るようなニュースやスポーツ、芸能記事、株価や為替のデータなども多くがここに該当します。

旧来からのメディア形態で言えば、新聞がその代表例です。今この文章を書いているのは、2012年の4月5日の朝6時です。今日もこれから、駅では多くのビジネスマンが4月5日付けの日経新聞朝刊を買い求めるでしょう。しかし、同じ内容の朝刊を、今日の夕方や明日の朝に売ったら、売れるでしょうか? 当然売れませんよね・・・。当たり前です。だから古新聞という言葉があり、1日も時間が経ってしまえば新聞というものは、経済的にはチリ紙以下の価値になります。その意味では、新聞は紙メディアの中では、もっともフロー性の高いメディアです。しかし、今朝発売の週刊マンガ誌を今日の夕方や明日の朝に売るのであればどうでしょうか? おそらく新聞よりは価値を認めてもらいやすく、店頭で売れやすいはずです。(駅前の路地裏などで、マンガ週刊誌は、駅のゴミ箱から拾われてて再販売が成り立っている場面を見ますが、あの商売は、新聞では成立しません)。その意味では、新聞よりも週刊マンガ誌のほうが、フロー性が低く、ストック性が高いということになります。

フロー性の高い順に今の一般的なメディアを並べると

フロー型 ← ← ← ← ← ← ← ←   → → → → → → → → ストック型
Twitter>ニュースサイト>新聞>週刊誌>月刊誌>ムック>新書>単行本・書籍

という感じでしょうか。

私見ですが、印刷メディアをフローかストックか?どっちか?と強引に分類するならば、月刊誌からムックのあたりに、フローとストックの境界線があるように思います。これをユーザーの実感に即して言い方を変えると、作る側と読む側の関係において「ストック性(つまりは保存価値)を認めて、バックナンバーを捨てずに取っておきましょうね!」というコミュニケーションがチラホラと成り立ちだすのが、このあたりからということです。

逆に言いますと、現代のメディア環境において、月刊の雑誌は「今ココ」で読まねばヤバい!というフロー性と、これはずっと残しておく時代を超えた「古典」的な価値があるというストック性の間に挟まれ、どっち付かずになってしまう危険性のある領域とも言えます。

例えば、若手サラリーマン向けの月刊ビジネス誌である「日経ビジネスアソシエ」の最近のバックナンバーを見てください。英語とか整理術とかテーマ的には、「今ココ」で2012年4月のタイミングで読まねばならない必然性は弱く、まあ「確かに重要だけど、それは以前からも、常にそうだよね」というテーマであり、そのままムックや新書のテーマになってもいいようなものばかりとも言えます。(余談ですが、私は、現在、多くの月刊の雑誌が、読者からの「そもそも発行頻度は月一回である必然性がどこにあるのか?」という無意識の問いを突き付けられていると思っています)

さて、これまでストックと、フローについてそれぞれの特徴を説明してきました。
最後に私からオススメするのは、ストックとフローを行き来する視点を持つことです。プロ野球のピッチャーならば、速球と変化球を混ぜつつ、緩急をつけたピッチングをすることを意識しないはずがないように、これはプロのメディア人として、常に意識する価値のある視点です。また、ネタ出しの発想法としては「常套手段」とすら言えるものです。

例えば、Twitterは究極といってもいいほどの「フロー」型メディアですが、そこに掲載される面白いツイート、興味深いツイートをピックアップして再編集し、一つのWebページにまとめる「トゥゲッター」は、Twitterそのものから、ややポジショニングをストックよりに移すことを狙い、「ツイートのピックアップ」や「見出しの強調・色つけ」といった編集機能を持たせることでオリジナルのツイートにストック性の高さも付与し、人気サービスとなりました。

また、他には、フローが中心となるべきニュースサイトでも、「読者は、実は基礎的な政治経済用語を案外、知らないのでは?」ということに着目し、例えば、「そもそも公定歩合ってなに?」といった普遍的なストック型コンテンツを用意し、それを動線的に強く紹介することで読者に喜ばれることもあります。(私も創刊に携わった週刊のフリーマガジンである「R25」は速報性=フロー性で勝負しない、と決めた時点から常にこの視点を意識していました)

また、ストック型コンテンツを紹介したり、プロモーションしたりする場合でも、例えば「格差社会が叫ばれる今だからこそ、プロレタリアート文学の古典『蟹工船』を読もう」というように昨今のフローのメディア状況に引きつけて、「今ココ」でそのコンテンツに触れる必然性を演出するというのは、非常によくあるプロの「常套手段」ですね。(書店のPOPがその典型です)

その他にも、例えば、Twitter上には、古今東西の偉人や有名人の名言を、ツイートの形態に乗せてフォロワーのタイムラインに配信することで、数万ものフォロワーを獲得する人気ボットがいくつもあります。これも、ストック性の高いコンテンツ(=名言)を「フロー」の場に強引に引っ張り出し、「今ココ」で読ませてしまうことで、メディア価値を創出する試みと言えるでしょう。

ストック性の高いコンテンツというのは、大げさに言えば人類の文化遺産的なところがあって、時代を超えて「読むべき」とされているものです。しかし「いつ読んでもいい」「いつでも読める」というのは、往々にして、「今すぐ読む必要も理由もない」ということになり易く、結果的に「いつまで経っても読まれない」ということになりがちです。

だからこそ、フロー性を付与し、いわばキッカケづくりをすることで、「今ここ」で読まねば!という意味づけをすることに価値があるのです。(こういう意味付け、文脈付けというのも、本来的な意味では、いわゆるキュレーションに含まれていることでもあります)

豪速球と変化球を自在に投げ分けて打者を手玉に取るダルビッシュのように、プロのメディア業界人としては、フローとストックの両方を自在に行き来し、使い分けられるようになりたいものです。

次回は、「参加性」と「権威性」の軸について話しましょう。そのうえで、ユーザー参加型メディア(いわゆるキュレーション型メディアを含む)における、編集サイドの主体性や編集責任という、なかなかに悩ましい論点について紹介したいと思います。

■今回コラムの参考文献
私が敬愛する大先輩であり、幾多の雑誌や書籍など「編集」なさってきた菅付雅信さんの「はじめての編集」を挙げさせて頂きます。今回からコラムで紹介する3軸はこの書籍での紹介される視点に多大に影響を受けています。全精力をもってオススメしますので、未読の方はぜひお読みください。

田端信太郎「メディア野郎へのブートキャンプ」 バックナンバー

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田端 信太郎(LINE 執行役員 広告事業グループ長)
田端 信太郎(LINE 執行役員 広告事業グループ長)

1975年10月25日生まれ。
NTTデータに入社し、BS/CSデジタル関連の放送・通信融合の事業開発、JV設立に携わったのち、リクルートへ。フリーマガジン「R25」の源流となるプロジェクトを立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。

その後、2005年4月にライブドアに入社し、ライブドアニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員 メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSやMarketHack、Techwaveなどを立ち上げる。

2010年春からコンデナスト・デジタル社へ。カントリーマネージャーとして、以前から運営されていたVOGUEのウェブサイトに加え、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトデジタルマガジンなどを新たに立ち上げながら、デジタル事業の成長と収益化を推進。

2012年6月 NHN Japan株式会社 執行役員 広告事業グループ長に就任。


BLOG: http://blog.livedoor.jp/tabbata/
facebook : https://www.facebook.com/tabata.shintaro
twitter: http://twitter.com/tabbata

田端 信太郎(LINE 執行役員 広告事業グループ長)

1975年10月25日生まれ。
NTTデータに入社し、BS/CSデジタル関連の放送・通信融合の事業開発、JV設立に携わったのち、リクルートへ。フリーマガジン「R25」の源流となるプロジェクトを立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。

その後、2005年4月にライブドアに入社し、ライブドアニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員 メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSやMarketHack、Techwaveなどを立ち上げる。

2010年春からコンデナスト・デジタル社へ。カントリーマネージャーとして、以前から運営されていたVOGUEのウェブサイトに加え、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトデジタルマガジンなどを新たに立ち上げながら、デジタル事業の成長と収益化を推進。

2012年6月 NHN Japan株式会社 執行役員 広告事業グループ長に就任。


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