ビジネス・エシクス(企業倫理)の専門誌JOURNAL OF BUSINESS ETHICS最新号の情報が届いた。
日本ではビジネス・エシクス(企業倫理)の研究はややマイナーだが、欧米ではビジネススクールでは必修かつ人気の講座のひとつで、研究発表も活発だ。JOURNAL OF BUSINESS ETHICSは、最新の研究をオンラインで読める専門誌で、カナダのマニトバ州にあるブランドン大学アレックス・Cマイクロスが編集長を務める。
今回、トップに掲載された論文は「マーケティング活動は社会の幸福に貢献するのか?経済効率の役割(Does Marketing Activity Contribute to a Society’s Well-Being? The Role of Economic Efficiency)」で、マーケティング活動を考えるうえで示唆に富んだ内容となっている。発表したのは、QOLの定量評価に基づくマーケティング研究で知られるバージニア工科大学のマーケティング学部のM.ジョセフ・サージー(M. Joseph Sirgy)氏らの研究グループだ。
やや専門的だが、以下にその論点を紹介する。
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マーケティング活動は国の社会福祉やQOL(生活の質)に貢献するのだろうか。
経済効率は社会福祉にプラスの役割を担うのだろうか。
経済効率は社会福祉への影響を調整したり媒介したりするのだろうか。
この論文において、マーケティング活動は、国の一人当たりのプロモーションのための支出と人口当たりの小売店の数を指す。経済効率は、汚職や政府の規制、大規模なインフォーマル経済にとらわれない経済活動の範囲を指す。
世界銀行や他の統計的情報源から2次データを使用してこれらの問題への解を求めたところ、マーケティング活動と経済効率の両方が社会福祉に積極的に貢献することを示唆していることがわかった。経済効率は、マーケティング活動と社会福祉の間において、モデレーター(調整変数)の役割よりはメディエーター(媒介変数)の役割を担っている。
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マーケティング活動が社会福祉に貢献するかどうかというのは、資本主義の是非を問う根本的な問いだが、ジョセフ・サージー教授らの論文では、「汚職や規制や闇経済にとらわれない、透明性の高い、効率的で自由な経済活動」によって、それが可能になるとしている。逆に「汚職や規制や闇経済がはびこり、透明性の低い、非効率的で自由度の低い経済」ではマーケティング活動は、社会福祉に反し、人々のQOLは上がらないことになる。そこで、マーケティング活動を通して人々のQOLの向上に貢献したい企業は、国や公的機関とともに「透明性の高い、効率的で自由な経済活動」を推進することにも力を注いでいかなければならないということになる。
企業のマーケティング責任者にとっては気が重くなるようなテーマだが、昨年から大企業の不祥事が相次いでいることを考えると、後回しにできない問題でもある。
欧米のビジネススクールで人気講座になっているのと比べると、日本ではビジネス・エシクスはまだマイナーな存在。「江戸の商人道」や「職商人(しょくあきんど)」の哲学に学ぶなど、さまざまな私的な研究活動もみられるが、アカデミアにおいても、より体系的な研究と教育が盛んになることに期待したい。
※『環境会議』『人間会議』では、「ビジネス・エシクスの学び方と活かし方」を連載しています。第3回「コンプライアンスの呪縛を超えて」中村葉志生『人間会議』2012年夏号は6月5日発売です。
【ビジネス・エシクス関連の『人間会議』『環境会議』バックナンバー】
- 日本におけるビジネス・エシクスの第1人者、梅津光弘・慶應大学准教授のインタビュー
『環境会議』2011年秋号 - 連載「ビジネス・エシクスの学び方と活かし方」(1)
ライバルに学ぶビジネス・エシクス 高田一樹 『人間会議』2011年冬号 - 連載「ビジネス・エシクスの学び方と活かし方」(2)
経営哲学に語らせる組織づくり 寺本佳苗 『環境会議』2012年春号
エネルギー問題や自然環境保護など、環境問題への対策や社会貢献活動は、いまや広告・広報、ステークホルダー・コミュニケーションに欠かせないものとなっています。そこで、宣伝会議では、社会環境や地球環境など、外部との関わり方を考える『環境会議』と組織の啓蒙や、人の生き方など、内部と向き合う『人間会議』を両輪に、企業のCSRコミュニケーションに欠かせない情報をお届けします。 発行:年4回(3月、6月、9月、12月の5日発売)