今、世界中で話題を集めている“フラッシュ・モブ”。フラッシュ・モブとは、不特定多数の人々がインターネットなどを介して公共の場に集まり、目的を達成すると即座に解散するゲリラ的な行為を指す。欧米などでは2009年頃から企業のPRとしてフラッシュ・モブの手法が用いられているが、日本では今年に入ってからフラッシュ・モブ“風”イベントが見受けられるようになった。
狙うは、日本第一号店オープン直前の“バズ”作り―アメリカンイーグル アウトフィッターズ
今年4月、日本初上陸として話題を呼んだファッションブランド「アメリカンイーグル アウトフィッターズ」。1号店が東京・原宿にオープンするにあたり、オープニング時のPRについて議論が始まったのは昨年6月のこと。ターゲットである日本の若者に対し、どういった手法が“刺さる”のかファッションPR会社「ワグ」と戦略を練った。「オープン直前の“バズ”として、何か人々を驚かせるものが必要だと考えてきました。そこで提案されたのがマイケル・ジャクソン追悼で行われたフラッシュ・モブ。日本ではまだあまり見られたことがなく、話題性も十分。ターゲットである若い世代にもリーチできる手法として、“これだ!”と思いました」(イーグルリテイリング ディレクター)。
グローバルブランドのPRに多く見受けられる悩みとして、本国からPR手法について束縛されがち、ということがある。アメリカンイーグルもその例に漏れなかった。「ほぼ毎日早朝からニューヨークチームと話し合っていましたが、結局最後までフラッシュ・モブを用いたPRは反対されました。日本で前例がないというリスクの高い手法よりも、タイアップなど王道の手法でいけ、と猛プッシュされた。しかし、今の日本の若者にリーチするには、既にそのような手法は古いのだと力説しました」。
イベント告知は、ゲリライベントとして可能な限りの話題性を担保すべく、SNSのみで“4月7日、この時間にここに来ると良いことがあるかも?”とだけ知らせるのに留めた。「取材陣が揃い過ぎるとゲリラにならないため、イベントについて知らせたメディアはごく一部。後からメディアに渡せるように自分たちでカメラを設置し撮影しました」。
そして迎えた本番当日。突然広場に音楽が鳴り始め、雑踏に紛れたダンサーが突如踊り始めた。周囲の人々は急展開に唖然、道行く人も足を止め、突如始まったダンスに見入った。ダンスが進むにつれ続々と人が集まり、写メールの嵐が始まった。「カメラで撮ってその場でSNSにアップ、とまさに狙い通りの光景でした。ダンスの最後に、広場正面のビジョンにロゴを映し出し、ブランドのPRだと分かるよう展開したことで、ブランド名の入った“バズ”が起こりました」。
4月18日の一号店オープンのティザー的役割として行われたフラッシュ・モブ。オープン前日、本国のマーケティングチームが怪訝そうな顔で日本に集結した。「本国の助言を一切無視して独自のやり方を押し通したわけですから、これで当たらなかったらどうしようと心配でした」。しかし、オープン当日の朝、その心配は一気に吹き飛んだ。「1000人にも及ぶ人々が行列を作っていました。それを見た瞬間、本国のチームも一斉に笑顔になった。我々のやり方が成功した、と実感した瞬間でした」。オープン日、日本一号店は全世界に1000店舗以上あるアメリカンイーグルの店舗の中で史上最高の売上数値を記録した。
次々と始まるサプライズに大興奮、200人規模の大型ゲリラダンス―バカルディジャパン
今年4月、六本木ヒルズアリーナでバカルディジャパンによるイベントが開催された。これは、ラム酒「バカルディ」を使ったアルコール飲料「バカルディ RTD缶」の発売記念として、モデルの菜々緒をゲストに立てて行われたもの。会場で突然音楽が鳴り始めると、それまで観客や警備員、スタッフを装っていたおよそ200人が突如踊り始めるという仕掛けで話題を集めた。
「日本市場でのバカルディ缶新発売にあたり、サプライズのある企画で話題性を創出したかった」(バカルディジャパン マーケティング本部)。「バカルディがあればパーティが始まる」という商品コンセプトを具現化する、という考えからイベントを手掛けた電通の担当者はこう話す。「コンセプトを具現化する上で、できるだけライブ感がある形が良いと考えていました。“フラッシュ・モブ”は面白いが、幅広いPR露出を目的とするとゲリラでやっても意味がない。しかしメディアや世間の注目が集まる場に、サプライズ的なエッセンスを持ち込むことでバズを起こしたいと考えたことが始まりです」。
イベントに向け、15人のメンバーからなる委員会が発足。「パフューム」などの振付・演出を手掛ける振付師、ライブイベントの撮影を得意とする映像制作チームなども委員会に加わり、「まるで舞台の制作委員会のような」チームで準備を進めていった。舞台設定は「よくありそうな」新商品発売のPRイベント。キャンペーンガール、警備、バーテンダー、記者、通行人とPRイベント“らしい”それぞれの役を設定し、ダンスを構成した。「いきなりダンスがスタートするサプライズに加え、ダンスが進むにつれ“この人もダンサーなの?えっ、この人も踊るの?”といった驚きも大切な要素であったため、観客からダンサーだと気付かれないための演技の部分も意識しました」。
そして迎えた本番。ゲストである菜々緒による「乾杯!」の合図で突如音楽が鳴り始め、ダンスが始まった。通行人、バーテンダー、見物客、さらにはこれまで警備をしていた警備員までもが次々と踊り始め、観客はサプライズに観客は騒然。会場は大盛り上がりとなった。「興奮の渦に包まれる会場を見て、まさに“パーティが始まる”というコンセプトが具現化した姿だと思いました。オペレーションにも予測不能な部分が大きかっただけに、その盛り上がりには感動しました」。
イベントを行うにあたり、瞬間的なノイズを起こすだけでなく、その後も話題になるようなものを作りたい、という意図があった。そこで、カメラワークを綿密に検討し、イベントの様子をワンカットで撮影。終了後直ぐにその映像をWebサイト上にアップし、話題の継続化を狙った。「PRイベントそのものをプロモーション動画として使うことで、バズ効果が得られたと思います。イベントだけだと、どうしても瞬間的なノイズになりがち。それを上手くプロモーションとしても利用することで、相乗効果が得られました」。さらに、意識していたSNS拡散も予想以上に広がったという。「イベント動画は、イベント後2週間のうちに1万回以上再生されたほか、各SNSにもリンクとともに拡散され、バカルディWebサイトへの誘因にもつながりました」。
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