野村 尚克 CausebrandLab.代表
マーケティングなのか?CSRなのか?あるいは、企業活動なのか?ボランティア活動なのか?関わる立場によって、コーズマーケティングの理解の仕方はさまざまに異なっている。なかには、「売名」や「偽善」と思う人もいる。では、コーズマーケティングは本当に偽善なのだろうか。本稿では、NPOが主体となって全国的に立ち上がっている新しいコーズマーケティングを紹介するとともに、コーズマーケティングへの誤解を解いていく。
立場によって理解が異なるコーズマーケティング
私がコーズ・マーケティング(CRM)と出会ったのは2005年のことである。それからこれまでさまざまな企業やNPOと連携し、いくつもの企画を立ち上げてきた。これらの経験を通じ、私は単なるマーケティングとも違い、単なる寄付とも違う、CRMの素晴らしさと難しさを体感してきた。
7年経って実感するのは、多くの企業によって行われている割に、実際のところはあまり表では語られていないということだ。そこで本稿ではこれまでの経験から、CRMの実際のところを解説したいと思う。
立場によってコーズマーケティングの理解が違う
コーズマーケティングは「マーケティング」とあるようにマーケティング活動の一つである。しかし、寄付などを通じて社会貢献することから「社会的な課題の解決活動」の一つでもある。この2つの要素を併せ持つことから、CRMへの理解は多様になる。企業がCRMに取組む場合、そのことを理解しておく必要がある。
企業がCRMに取組む場合、担当部門は主にマーケティング部とCSR部になるが、マーケティング部が取り組む場合はマーケティング効果を第一に求め、CSR部が取り組む場合は社会貢献活動の一環として企業へのリターンは求めない場合が多い。また、CRMは寄付先としてNPOとの協働が必要になるが、NPOにとってCRMは寄付を集める場であり、社会的な課題の存在を社会に知ってもらう場・機会となる。
このように関わるセクターによって理解に違いがあるのがCRMの大きな特徴だ。そしてこの違いは活動を推進するにあたって障害を生む。ビジネスにおいて、企業が他企業と協働する場合、両者の目的は共に利益を上げることで共通だ。故に協働がスムーズに進むが、CRMにおいては目的が違うため、このようにはならない。
また、ビジネスにおいてはお金を払う方が立場は強い。しかし、CRMの場合、寄付する企業がNPOに指示を出すということはありえない。そのようなことをすれば、NPOは寄付を跳ね返し、プロジェクトは成立しなくなる。このように通常のビジネス活動とは違うのだが、企業の、特にマーケティング部門の担当者がこれを理解するのはなかなか難しい。
なぜ「売名」「偽善」といった批判が出るのか
CRMを実践すると、たいていの場合、高いマーケティング効果が生まれる。販売促進や売り場づくりといったものだけではなく、プロダクトやコーポレートブランドのイメージアップにも貢献する。
このように、CRMはとても優れた活動なので、マーケティング部門は積極的に進めたいと考えるのだが、実はPRが難しい。企業の行いを知ってもらうためにはPR活動は欠かせない。しかし、CRMではそうはいかない。通常のマーケティング活動であればタレントなどを起用して積極的なPR活動を行えても、CRMとなるとどこか敬遠してしまう。
大々的に行うと「売名」や「物を売りたいがための偽善」との批判が起こることが懸念されるからだ。よって、広告はあまり出稿せず、また出したとしてもおとなしいトーンのものになる。「インパクトのあるものを大々的に」といった広告やPRとはほど遠い活動になるのだ。
にもかかわらず、「売名」「偽善」といった批判が生まれるのはなぜなのだろうか――。
それは日本に古くからある「陰徳の精神」が大きく影響しているからだろう。「善い行いは人に知られないようにひそかにする」のが日本の美徳であり、目立った活動をする者は批判される。よって、企業は静かに活動し、しかし、それでは消費者に知られないことから、誰かに気づいて欲しいと願う活動になる。
しかし、これは考えてみればおかしなことである。すべての企業が寄付や社会的な課題の解決に取組んでいるわけではない。それなのに、取組んでいる企業がなぜ批判されるのか。少なくともCRMによって寄付される金銭は企業の負担である。その負担を行う企業が批判されるのはおかしな話だ。
重大なコンプライアンス違反を行っている企業がそれを隠すために行うのであれば問題だろう。しかし、多くの企業は良きビジネス活動を行っており、その活動によって社会を豊かにしている。
実際、一般の人に「社会貢献している企業としていない企業ではどちらを応援したいか?」「どちらが売上げを向上されるべきか?」と質問してみると、たいていの人は前者と答える。そして、その活動を「どうやって知ってもらうべきか?」と聞くと、「きちんとPRすれば良い」と答える。つまり、論理的に説明すると大半の人がCRMによる企業のPRやマーケティングによる利益を認めるのだ。
よって、今後のCRMはこれらのことも含めてしっかりと説明していく必要があるだろう。そして補足だが、これらの批判は主に消費者側で起こるものであり、支援を受ける側では起こらないということを伝えておく。
企業とNPOは共に「お金」の問題で悩んでいる
実はこのような金銭に関する問題はNPOにおいても同様に存在している。NPOは「非営利活動法人」の略だが、無償で活動する組織ではない。それは社会的な課題の解決には時間がかかり、組織の運営にはお金がかかるからだ。また、専門能力を持つスタッフへも正当な対価が必要だ。
しかし、社会的な課題に取組むことと給与、そして事務所費や光熱費などの費用を寄付から捻出することはなかなか認められないのが実情だからだ。
つまり、企業活動においても、NPO活動においても、社会的な課題の解決活動(社会貢献活動)に取組むことにおいて、金銭を得ることは難しいのが実状なのである。
このように、両者は同じ問題で苦しんでいるので、解決のためには共に声をあげ、社会の意識を変えていくしか方法はない。そのためにはまずは両者が相手のことを認めることから始める必要がある。NPOは企業がCRMによってマーケティング効果を得ることを認め、企業はNPOが寄付金の中から人件費などの費用を捻出することを認める、ということである。
問題を乗り越え、進化する協働関係
CRMでは、企業は自社や商品を優先してPRしたがるが、これはとても難しい。それは先ほど述べたような背景があるからだが、実は消費者から最も支持されるPRは「社会的な課題の訴求」である。「途上国に水がなくて衛生環境が劣悪である」、「貧困によって子どもがまともな教育を受けられない」といった社会的な課題をしっかりとPRし、それを解決するためにCRMを実践すると説明することが、はじめに行わなければならないことである。
また、この場合、「どのNPOへ寄付するか?」というのはあまり重要ではない。私たちの調査では、現在、NPOで強い支持を受けている団体名はほんの一握りだが、それよりはこの寄付によって「どのような社会的な課題の解決につながるのか?」を重視する傾向が強いことが分かっている。
このようなことから、寄付先NPOは一つでなくても構わない。各々違う優れた点を持つNPOがあれば、複数の団体へ寄付しても良い。そして、このようなことを一つの背景としてNPO自身が連携する事例も生まれてきている。これは地域のNPOをサポートする「中間支援NPO」が中心となって立ち上げているものだが、大阪の箕面市にある「NPO市民活動フォーラムみのお」が立ち上げた「みのおチャリティタウンプロジェクト」や、北海道の3つのNPOが事業実施コンソーシアムとなった「Action For HOKKAIDO」などがある。これらの活動はNPOが複数参加し、企業も複数参加するのが特徴で、この場合、PRにおいても相乗効果が生まれ、一緒に活動しようという勢いも生まれる。これは地域主体の活動だが、全国的に起こっているところがたいへんユニークだ。
このように、CRMには様々な難しさがあるが、全て解決できる問題である。そして実施するとたいへん高い効果がある。それは社会的な課題の解決にとってはもちろんのこと、企業活動にとってもNPO活動にとってもである。そして、いまより活動を拡げるためには企業、NPO、消費者といった様々なセクターの協働が必要だ。そのためにはお互いが相手を理解することが必要である。そしてそれが実現できた時にはもっとインパクトを持つだろう。
野村 尚克(のむら・なおかつ)
Causebrand Lab. 代表。立教大学大学院修了。ソーシャルプロデュース、マーケティング、CSR を専門とし、「コーズブランド/寄付つき商品」という概念を日本で提唱。代表作「1億人のバレンタインプロジェクト」「ありがとうpr oj ect 」「Japan.Thank You. アクション」「aCtion!×Tohoku」など。著書『世界を救うショッピングガイド』。宮城大学非常勤講師。
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。