ここでは、『販促会議』2013年2月号に掲載中の連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)
消費者インサイトという考え方が本格的に日本に導入されて10年以上経つ。消費者の情報処理の95%は潜在的に行われているという脳研究があり、消費者にニーズを聞いてもなかなか発見できないことが分かってきた。ここ数年で、消費者自身も分かっていない本当のニーズをつかむための観察法やデプスインタビューなどが開発されている。
最近は、店頭においてもインサイトが重視されている。なぜなら、消費者の気持ちは状況によってめまぐるしく変わるからだ。特に店頭では、価格や商品情報、催事、特売などさまざまな情報に影響される。こういった売り場における買い手の潜在意識に目を向けようとするのが、ショッパーインサイトの考え方だ。サンディスクのSDカードはこのショッパーインサイトをうまく捉えたパッケージデザインだと言える。
SDカードの価格は1500円から、高いものでは1万円近くする場合もある。価格を考えれば、消費者は慎重に品質・機能・価格を吟味して購入する商品である。実際、SDカードには容量のほかに、最高速度、スピードクラス、規格、耐久性、互換性などさまざまな商品スペックが存在する。しかし、それにもかかわらず、サンディスクのSDカードのパッケージデザインは極めてシンプルだ。目に入る大きさで表記された情報は商品名、企業ロゴ、容量の3点に絞られている。
実は多くの場合、SDカードはデジタルカメラやビデオカメラと同時に購入される。数万円の商品を購入した直後のショッパーインサイトを考えてみてほしい。「早くカメラを使ってみたい。付属品の買い物なんて早く済ませたい」という人が多いだろう。SDカードの購入場面では、商品への関心、価格感度は小さいのだ。信頼できるブランドが、売り場で「SDカードであること」と「容量」を分かりやすく伝えさえすれば十分なのである。
サンディスクのSDカードのパッケージデザインは、売り場で分かりやすいコーポレートカラーを前面に使い、ホワイトスペースを設けることによって視認性を高めている。さらに、世界シェアNo.1の信頼感のあるブランドロゴを、しっかりと目立つ位置に配置している。
おそらく店員と一緒にデジタルカメラを選び、SDカードはレジに行く途中で購入するのだろう。「SDカードはどうしますか。32GBを購入される方が多いですが」「じゃあそれで良いです」「このブランドが一番売れていますが、これでよろしいですね。レジへお進みください」といったやりとりが予想できる。
一方、シンプルなパッケージに対して、商品本体に貼付されたラベルには最高速度、規格、耐久性、互換性といった、SDカードを指名買いする人に必要な情報が明記されている。ショッパーインサイトに基づく情報の優先順位が反映された同商品のパッケージは、パッケージデザインの一つのあり方を教えてくれる。
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。
【バックナンバー】
- 医薬品“らしくない”パッケージへの挑戦
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- 耐久消費財をパッケージデザインで売る——「販促会議7月号」より
- アジアのデザイン力——「販促会議6月号」より
- “美しい”パッケージデザインとは——「販促会議5月号」より
- 無印良品のデザインはなぜ“良い”のか?——「販促会議4月号」より
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