2012年3月に発売されるや、「とうふ」×「機動戦士ガンダム」という異色のコラボであることと、パッケージからプロモーション動画にいたるまですべてがコアファンもうなる出来ばえだったため100万機*を超えるヒットに。そして10月には鍋用とデザートタイプがラインアップに追加。「ファンにスゴイと言われたい」という、相模屋食料の鳥越社長に話を聞いた。
(*一丁ではなく一機と呼ぶ)
奥さんからダメと言われない
「とにかくガンダムが好き」という、100%個人的な趣味で始めたことなので、ここまでヒットするとは思いませんでした。開発の際に考えたのは、購入者は30〜40代のガンダムコアファンの男性ということ。その方たちがスーパーで買い物するときに人気なのがビールのおつまみで、特に枝豆に冷奴がランキング上位だったので、枝豆味の冷奴にしました。
もう一つ考えたのは、スーパーでの買い物シーン。奥さんに付き合わされて、カートに好きなお酒を入れても、「それは買わなくていい」と取り出され、おつまみでも500円くらいする乾き物だと「ダメ」と言われたりする。でも100円〜200円くらいだと奥さんも「まあ、いいか」となるわけです。従って、奥さんの後ろでカートを押しているだんなさんが、ふと売り場に目をやると“こんなところにザクがいる!”と驚いて思わず手にとってカゴに入れる。でも200円なので奥さんに文句を言われない、というストーリーなら買っていただきやすいと思ったのです。
バイヤー、販売担当も楽しみながら売り場を演出
バイヤーさんにこの商品を見せると、ガンダムファンかどうかで反応は大きく違いました。知っている方の反応はとても良かったですが、その上の部長クラスになるともう少し年代が上なので、知らない方も多い。それでもこの商品を支持してくださったのは、これまでにない30〜40代男性という客層をとれる商品だから。
また、パッケージこそ変わっていますが「とうふ」という誰しも食べたことのある、食べ方も分かる商品だったこともあると思います。あと、ファンからすると当然ですが、この商品は一機だけ買うのではなく、みな複
数買っていきます。バイヤーさんがファンの場合、そういう「一人が複数買う」ことが分かりますから、該当エリアにその層の男性客が多い店からは「これはいける」とたくさん発注いただきました。こういう商品はすべての店舗で売れるものではなく、0か100かはっきり分かれます。
店頭では、売り場担当の方がものすごい情熱を持って売ってくださいました。あるスーパーでは、売り場をつくるために自らホビーショップに行ってプラモデルを買い、作中の名セリフを書いた手書きPOPを貼り付けてくださいました。それを見た店舗巡回の担当者が写真を撮って別の店舗に見せたところ「ウチもやる!」となり、そうした売り場演出が広がっていきました。担当者からも「みな楽しんで販売している」という報告がきました。
通常、棚を取るための営業は非常に難しく、POSデータなどを基に棚効率を良くしようと仕入れ数など綿密に計算され、1フェイスを2フェイスにするのも大変です。それが、この場合はそんな棚効率の計算などおかまいなく、2フェイスどころか棚にプラモデルが置かれていたりするわけです。販売側の「これを売りたい、売るのが楽しい」という気持ちを高められれば、そうしたことを超えられると実感しましたね。
レシピ投稿などファン発信で盛り上がる
10月には第2弾として「鍋用!ズゴックとうふ」と「ザクとうふデザート仕様」を発売。ここで工夫したのが店頭POPです。この商品は袋の中に入っているのですが、売り場から「中に何が入っているのかが分からないので、チャンスロスにつながっている」という声がありました。
また、ある店舗はパッケージをそのままPOPにして「これがあると全然商品の動きが違う」とおっしゃっていた。そこで、そうした声を反映させて、ズゴックとうふ発売の際は、袋の中に入っているパッケージが分か
るPOPを作成しました。
そして、ザクとうふの時から提唱してきた「ジオラマレシピ」を進化させて、ズゴックとうふを使った「ズゴック鍋写真コンテスト」を行っています。これは、商品を買っていただいた方々が、ツイッターなどで食べ終わった容器を使って遊ぶ様子や、調理の様子などの画像をたくさんアップなさっていることにヒントを得ま
した。
通常、いわゆるレシピ投稿企画というのは女性が多いのですが、ガンダムファンの共通体験である「ガンプラ」「ジオラマ作り」の要素を取り入れたことで、あの時の懐かしさを思い出して、男性が一生懸命作って応募してくださっています。また、購入者の声を見ていると、もはやこのとうふがコミュニケーションツール化しており「夫が、息子が喜ぶから買った」など、ファン以外の方にも購入の幅が広がっています。
今後も、自ら楽しんでこだわりの商品を作り、ファンの方を「ここまでやるか」と驚かせ、喜ばせたいです。プロモーションにおいては、何かを積極的に仕掛けるということは今後も行わないと思います。今回のレシピコンテストも、皆さまの盛り上がりを受けて実施したにすぎません。当社からの「これで売ろう!」という仕掛けが一切なかったことが、逆に良かったのではと思っています。
ガンダムのファンとして「ここまでこだわったから見て!」という気持ち、つまりファンの「ガンプラがうまく作れたからみんな見て!」という感覚で、一生懸命自分のやりたいことを、共感していただける方がたくさんいる中で突き詰めていきたいですね。そうすればその輪が広がっていくということを、今回のことで実感しました。