大丸松坂屋が婦人服売り場に導入した有料接客サービスが人気だ。導入店舗では、1カ月に1500人ほどが利用しているという。サービスの正式名称は「ショッピングナビ」。来店客が3000円を払えば1人の店員を専属スタイリストとして独占できるというものである。
企業が顧客と良好な関係を構築するためには、3つのハードルがある。顧客の認知(Recognition)→利便性の提供(Time saving)→心の平穏の提供(Peace of mind)の段階だ。
まず、購買履歴などから、その顧客がどのような嗜好を持っているのかを明らかにすることが「顧客認知」だ。これは会員データなどがあればそこから推測するが、フリーの顧客ではそうはいかない。しかし、有料サービスであれば、わざわざ費用をかけて利用しているため、顧客は積極的に情報を開示する。
次に、顧客に手間をかけさせずに必要なものがスムーズに探せ、忘れないようにすることが「利便性の提供」だ。顧客は料金を払っているため、接客を受けることによる「買わなければ」というプレッシャーから解放され、堂々と「買わない」という選択肢を手にしている。同時に、前述の通り詳細に自らの情報を開示することに一層抵抗がなくなる。それにより、担当者は適切なアドバイスの精度を上げることができる。
大丸松坂屋は料金に見合うだけの洗練された接客技術を提供するために、今後も一層の研鑽を積んでいくという。より快適に買い物ができる環境を「仕組み」として整え、顧客に「ああ、やっぱり料金を払ったことだけのことはある」という「心の平穏」に導いていく戦略だ。
「売らんかな」と「買わされ感」という関係性を、今までは考えられなかった「有料化」という新たな要素を取り入れることで変えるという、この大丸松坂屋の発想には学ぶものがある。但し、それはあくまで経過措置的なもので、やがて「売る側・買う側の対等な関係」が本来の姿として無料でも提供されるようになること筆者としては願う。
金森努「あの商品、このサービスがヒットするワケ」バックナンバー
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