無印良品のデザインはなぜ“良い”のか?——「販促会議4月号」より

パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2013年4月号に掲載中の連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。


(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)

muji-pet

写真は「無印良品 PET詰替ボトル クリア 250ml用」。

無印良品のデザインは高く評価されている。多くの雑誌で無印良品の特集が組まれ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)では販売だけでなく、インストアショップの開店まで許されている。ドイツの「iFデザイン賞」でも史上初めて五つの金賞を受賞するなど、その評価は海外でも非常に高い。

なぜ、無印良品のデザイン品質は高いのだろうか。第一の理由としては、デザインマネジメントの高さが挙げられる。

まず、良品計画では、「どういったデザインを“無印良品らしい”とするか」「無印良品にとってふさわしいデザインとは何か」という点を明確にしている。無印良品のアドバイザリーボードを務める原研哉氏は、同ブランドのデザインを“エンプティ”という言葉で表現している。

「シンプルというより空っぽなんです。(中略)水盤に桜の花びらを数枚浮かばせれば、満開の桜の樹の下のイメージになる。何もないところに架空のイメージを呼び込みながら、主客互いのイメージを交換していく。無印良品もやはり本質的なところは日本の美意識に依っている」(2009年5月『月刊リアルデザイン』)。

また、同社ではデザインの判断を経営のトップマターとして扱い、外部からデザイン分野のアドバイザーを招いて、年2回の商品判定会を行っている。そこでは、“無印良品らしいかどうか”が審査され、その発売の可否が判断される。

もう一つの理由は、国内外の著名なデザイナーが参加していることだが、それは単に、一流デザイナーに高い報酬を払ってデザインさせているという意味ではない。実際、無印良品ではデザイナーの名前をあえて公表していない。つまり多くのデザイナーが、無印良品の商品開発に参加すること自体に価値を見出しているということではないだろうか。

良いデザインを採用し、商品化していく良品計画という会社やそのブランドに魅力を感じ、著名なデザイナーが商品づくりに参加し、また無印良品のデザインが進化していく。無印良品にはそういった、デザインの質を向上させるスパイラルが存在している。

また、無印良品は顧客ニーズを吸い上げ、デザインに反映する努力も怠らない。例えば浴室を観察すると、シャンプーやリンス、ボディソープなど、形や大きさの異なるさまざまな商品が並んでいる。これを観察した商品開発者は「棚の角が四角いのだから、容器も四角い方が並べやすいのではないか」「容器が透明なら中身が見やすいのではないか」と考える。

こうしたプロセスを経て、消費者のニーズを捉えた、無印良品らしいデザインの商品が完成する。自社が提供するデザイン価値を明確にし、デザインの評価を経営の重要課題として扱う。市場に投入した商品のデザイン性の高さが、力あるデザイナーを新たな商品開発に引き寄せる。こうした仕組みがあるからこそ、無印良品は優れたデザインを継続して世に出せるのである。

小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。


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