第2回の今日は、パリに作った「MIWA」の紹介をします。MIWAはブランドであり会員制俱楽部です。会員は、年会費1000ユーロ、入会金1000ユーロを支払うことで、サンジェルマンデプレにあるMIWAにアクセスすることができ、「折形の儀式」を行うことができます。これは、約700年前からある日本古来のプレゼントラッピングです。この儀式は、小笠原流礼法宗家の小笠原敬承斎氏が監修を行っています。
会員はまずプレゼントしたいものを持ち込みます。そのプレゼントに込める思いをスタッフにつたえ、どの折形にするかをスタッフが提案します。折形は、紙の折り方、水引の結び方、水引の本数によって相手へのこころを伝える言語のようなもので、たとえば、水引を9本使うときには、もっともあらたまっていて、5本はカジュアル。紙の折り方も江戸の末期には2000種類以上あったといわれていて、折った形が中身を表していたので、開けなくともなにが入っているかわかったといいます。つまり折形には、独特のプロトコルが存在していて、そのプロトコルをつかってコミュニケーションをしていました。
MIWAではこのプロトコルに用いて、会員の「こころ」を目の前でスタッフが折形という「かたち」にしていくのです。
この折形を行うカウンターは樹齢300年のヒノキの一枚板でできていて、MIWAの室内はすべてヒノキでできています。これは、日本書紀に「檜(ヒノキ)を以って瑞宮(みつのみや)をつくる材(き)にすべし」という言葉があり、神社をつくるときにはかならずヒノキをつかうことということが記されています。
MIWAでは、伊勢神宮の神宮備林がある岐阜県の東濃地方のヒノキをパリまでもってきて、数寄屋大工の方に作ってもらいました。ヒノキは日本にしかない樹種で、いままでヨーロッパにここまで大量に輸出されることはなかったので、手続きもとても大変でした。また、工事をはじめるにあたり、奈良の大神神社(おおみわじんじゃ)の神職の方にきてもらい奉鎮祭をしてもらいました。
折形の起源を辿ると、実は伊勢の神宮に起源があるといわれています。「のし」という言葉をご存知でしょうか?デパートなどで使われる「のし紙」、コンビニでも売られている「のし袋」の「のし」です。「のし」とは、これらの右上についている六角形のもののことで、これは「のしアワビ」に由来しています。「のしアワビ」は伊勢の神宮で最初に神饌に捧げられたもの。そして、それを包んだのが折形だったのです。
ラッピングをするだけでなぜここまで?と思われる方も多いかとおもいます。全く効率的ではないし、第一プレゼントを受け取る人は、折形がどんなところで折られたか関係がない。しかし、MIWAはあえてそこにこだわっていて、この究極の無駄こそが価値を生み「高付加価値のブランド」となりえると考えています。これは結果ではなくプロセスにこそ意味が存在していると考えているからです。折形もきっと機械でつくることは不可能ではないでしょう。そしてそのほうが効率的につくることができるかもしれません。
しかし、「時間、経済効率最大化」というルールでは「こころ」を伝える深いコミュニケーションは生まれないと考えています。たとえば、贈られたものが何時間も並ばないと買えないものだったとします。もし受け取った人がこのことを知っていたとしたら、この贈物はその物以上に何倍も価値を感じるでしょう。これは、相手が時間を自分のためにつかってわざわざ買いに行ってくれたということが意味をもっている。折形では「相手のことを思い、惜しみなく時間をつかうこと」こそ、こころを伝える極意だといわれています。
MIWAは、相手を思う気持ちを醸成するための贅沢な時間を使う場であり、効率主義と真逆のことをすることによって「こころ」の伝達を最大化しようとしているのです。そして、これこそ現代社会でもっとも価値のあることだと考えています。
いまや大量生産、大量消費の時代です。これを受け入れずに生きて行くことはほぼ不可能です。なので、MIWAに持ち込まれるものも大量生産のものもあります。しかし、MIWAでは大量生産のボールペンであっても、超高級なジュエリーであっても、同じように大切にあつかい「折形」につつんでいきます。それは、贈る人の感謝や尊敬、弔いの気持ちは唯一無二なものであり、代替不可能なもだと考えているからです。その「こころ」の「依り代」がプレゼントであり、それを「折形」で包むことで、その人の「こころ」を表す、唯一無二なものに変えることこそが、MIWAでやっている本質です。
次回は、MIWAはパリでどんな人たちに受け入れられているのかをご紹介していきたいとおもいます。お楽しみに!
【佐藤武司「パリ発 世界に通じる日本ブランドのつくり方」バックナンバー】