そこで、『環境会議』2013秋号では、「ソーシャル消費」や「エシカル消費」の最新動向を踏まえて、社会のためになる消費のあり方を考える特集を組んでみました。本誌の一部を紹介します。
河口 真理子(大和総研 調査本部 主席研究員)
3・11後、思いやりや環境への関心が高まったといわれる。その分かりやすい事例がエシカル消費への注目である。最近ではエシカルジュエリーやエシカル・ウェディングなどが多くの関心を集めるようになった。しかし、これは一過性のブームではなく、歴史的に見て消費の質を転換させる経済発展の一つの段階だと考える。
3・11後の価値観
3・11大震災と福島原発事故からはや2年半たち被災地以外の経済や社会生活は通常モードに戻りつつあるように見える。しかし震災を機に前とは大きく変わった点が2つある。1つは「エコマインド」。それまで、エコ製品や省エネなどは、環境問題に関心のある一部の人たち向けのニッチビジネスだったが、2011年の大規模な節電の経験や再生可能エネルギーの促進策として期待される固定価格買取制度(FIT)の導入などによって、省エネ製品や自然エネルギーなどはビジネスとしても市民生活においても「当たり前」になった。
もう一つは人々の価値観である。たとえば震災半年後に行われた意識調査*1では、今後の社会生活において重要と考えることの上位3つは「他人を思いやる心」「他人との助け合い」という社会との共生を目指すものと「環境への配慮」であり、経済成長や雇用創出を上回った、という結果が報告された。
※画像をクリックすると拡大します
エシカルの認知・興味度等の把握を目的とし、15歳以上の男女1100名を対象にした調査で、8割の人が「エシカルは今の時代に合っている」、7割が「今後、より増えていく」に賛同している。
(調査期間:2011年6月27日~30日、Web調査)
→エシカル・プロジェクトのサイトへ
エシカルの発祥
こうした傾向は、未曽有の大災害を経験したための一過性の現象ではない。世界的にみても20世紀の後半以降、「環境」と「社会との共生」を重要視する価値観「エシカル」が広がりつつある。エシカルとは英語のethical(倫理的、道徳的)をカタカナに置き換えた言葉だ。日本でエシカル消費の実態調査を行っているデルフィスでは、エシカルを「人・社会や地球のことを考えた『倫理的に正しい』消費行動やライフスタイルを指すエコだけでなくフェアトレードや社会貢献も含んだ考え方*2」と定義している。英国では、1989年に消費面から地球環境や途上国支援など「倫理的に正しい消費」を広める専門誌の『エシカルコンシューマー』が創刊され、1998年にはエシカル・トレード・イニチアチブというエシカルビジネスの協会も発足した。パリでは2004年からエシカルファッションショーが開催されるようになり、2011年に発行された『スペンド・シフト』では米国の消費動向の変化について「世界最大の消費経済を築いた需要は、今ではより多くではなく、『よりよく』を望んでいる*3」ことを指摘している。
デルフィスでは、エシカル実態調査を2010年から継続的に行っているが、2012年の調査*4
では、エシカルを『今の時代に合っている』と考える人が72%、「今後より一層増えていく」が60%と支持を得ていることがわかる。
*1 シタシオンジャパン2011・10・26「調査結果リリース 震災から半年後の全国1万人調査で判明!!」
*2 デルフィス「第2回エシカル実態調査」(2011/6)
*3 ジョン・ガースマ、マイケル・アントニオ共著、有賀裕子訳『スペンド・シフト』プレジデント社 38頁
*4 デルフィス「第3回エシカル実態調査」(2012/7)