「保険をくるり」~コモディティ化したマーケットにおける新商品開発とコミュニケーション戦略とは
少子高齢化が進むに伴って、その規模が縮小しているマーケットも少なくない。一方、こうした時代を背景に注目が高まっている市場の一つに保険がある。
医療・介護・年金へのニーズの高まりが、マーケットの成長につながっている。とは言え、日本の生命保険普及率は90%(生命保険文化センター 平成24年版「生命保険に関する全国実態調査」より)と高く、市場は飽和状態であるのも事実。また、保険という商品ならではの悩みも多い。
アクサ生命保険・松田貴夫氏は、「ライフサイクルの長い商品であるがゆえ、お客さまにサービスの対価を感じていただきにくい。そうしたなか、当社ブランドを選んでいただくきっかけづくりとして、ブランディングは非常に重要」と強調した。
日本における同社のシェアは5~6%で、業界第6位。国内の知名度はさらなる拡大の余地があるものの、グローバルで見れば資産運用総額127兆円、1億200万人の顧客を持つ世界最大手の保険・資産運用グループ。インターブランド社のグローバルブランドランキングでも、保険グループの中ではNo.1ブランドとなる59位(2013年)を記録している。
ブランディングの特徴は「プルーフ戦略」。顧客に対して自社の理想の姿・あり方を示していく「プロミス戦略」に対し、「なぜアクサが選ばれるのか」という根拠を実際の商品・サービス価値を通じて説明するという戦略だ。
「ファクトを起点にした訴求は、お客さまにも理解していただきやすい。広告施策ごとのROIも自然と高まるが、グローバルの視点では、国ごとに異なるプルーフにより、統一したイメージが打ち出せていない可能性がある」と話す。
また市場のコモディティ化についても言及。その状況下、同社が保障内容や保険料ではなく、「サービス」でトッププレイヤーを目指し、取り組みを進めていることも紹介した。「今は、保障内容と保険料を、保険を選ぶ際の判断基準にするお客さまが多いと思うが、今後は病気やけがの時に受けられる『サービス』が切り札になると考えている」(松田氏)。
保険のなかでも特に伸びが顕著なマーケットは医療保障・がん保障。しかし医療保険は、2002年に競合他社が「終身医療保険」(病気やケガによる入院費用を一生涯保障する)市場を開拓、一気にシェアを伸ばすと、他社も同様の商品を相次いで販売するようになったことで、コモディティ化が加速した。「メディカルとプロテクション(医療保障と死亡保障)に特化している当社は、ここでの差別化が不可欠」と松田氏。
生命保険文化センターの調査によると、「今後の加入意向のある保障内容」の第1位は「入院」だが、厚生労働省を中心に進められている公的医療保障制度の見直しの中では入院日数を削減する方向性が強くなっているというギャップがある。
「将来的には、入院そのものより、退院後の治療におけるサポートが重要になってくる。保険業界も今後は、通院・治療に保障の軸足が移っていくだろう。入院といえば方法は一つだが、治療は多数の選択肢の中からお客さまが最適なものを選ぶべきだ。
良いドクターを見つけ、良い治療にアクセスし、適切な治療を提供するためのサポートを行う――そうしたことを総合的にケアできる保険会社にならなければ、20~30年後も続く、お客さまからの信頼は得られない」(松田氏)。そうした考えのもと、ここ10年は、保障内容を充実させ、競争力を高めるとともに、付帯サービスの充実に注力してきた。
たとえば「アクサのメディカルアシスタンスサービス」。病気になった時、看護師経験のあるスタッフに相談できる24時間稼働の電話相談を提供し、好評を得ている。
こうした取り組みも奏功し、ここ10年の医療保険マーケットの成長率は平均6%(アクサ生命保険推計)である一方、アクサ生命保険は市場平均を上回る成長を達成している。
「価格にも保障内容にも大きな差はない中で、当社が大きく成長できたのは、サービスへのこだわりが一つの要因だと思う。今後は、デジタルツールも積極的に活用し、保険に加入することのメリットをより多く体験していただくようなサービスの提供を予定している」と、デジタルとの融合を図りながら、より幅広いサービス開発に取り組む意欲をうかがわせた。