中学3年生でプロになり、史上初の7冠を達成。43歳になった2013年度も4つのタイトル戦に臨み3冠を守った羽生善治棋士。その実績はもちろん、数々の名言が長くメディアを賑わす稀有な存在である理由を探った。
雑誌「広報会議」2014年1月号紙面より抜粋
将棋界の広告塔として
長くメディアに注目され続け、いわば将棋界の”広告塔”の立場であることから、常に意識していることがある。「将棋は野球のように知らない人が見てすぐ理解できるものではありません。ですから、一般の人たちに将棋の世界を伝えていく、その伝え方については模索を続けなければならないと考えています」。
対局に入れば、棋士は1日中ひたすら黙って考える。「世の中にはたくさんの職業がありますが、このような変わったプロセスの仕事はあまりない。そういう意味で、対局中に考えること・感じることを伝えるのは、価値があることと考えています」。
一方で、将棋と他の仕事に共通する点もまた、伝えたいことだ。たとえば、棋士は何百局もの対局を頭にインプットして将棋を指しているために、「最後の手までクリアに見えている」と思われがち。でも実際には、悩んだり、葛藤したり、失敗したり、さまざまな感情の起伏があり、五里霧中の状態で指していることも多い、と羽生さん。「意外と知られていませんが、共感してもらえる部分ですし、もっと知ってほしい」。
30代からは本の執筆機会も増えた。「考えは常に変化しますから、何かに残さなければ忘れてしまいます。そういう意味では、インタビューを受け、本を書く機会に恵まれることは、自分の考えが整理されて発見もあり、ありがたいと感じています」。