リリースから記事が書けない!
山田:一点だけ、今日どうしても話しておきたいのが、2011年以降、ソーシャルメディアが浸透するなかで企業が「当事者」としていかにブランドコミュニケーションをしていくか、非常に悩んできたと思うんです。
片岡:企業がメディアになりたがっているという話ですよね。
山田:そう。ブランドジャーナリズムみたいな話ね。2009年の戦略PRが登場したばかりのころは「企業や商品の良いところは自分たちが発信しても信ぴょう性がないから、やっぱり第三者に言ってもらったほうがいいよね」っていう考え方がある意味、痛快だったし新しさがあった。でもここへ来て、逆に「それはちょっと気持ち悪いんじゃないの?」「それってステマ(ステルスマーケティング)でしょ?」という論調になってきて。「当事者性」というものに対して、PRはこれからどう向き合っていくのか。この議論が十分されていなかったのかなと。
中川:その問題でいうと、オレ、最近はプレスリリースから記事を書けなくなっちゃったんですよ。リリースをもとに書くと、ネットで見た読者から「リリースだけ見て書いてるのかよコノヤロー!」「リリース程度の情報だったら俺だって見れるんだよ!」と言われるから。ニュースの運営側がステマに加担してると思われるのを極端に恐れていて、自主規制しちゃう。
片岡:ニュースの発信元が企業というだけで、ステマだと勘ぐられると。
中川:そう。だからもっと言っちゃうと、いくら広報担当の皆さんにプレスリリースを送っていただいても、「ごめん。実はあんまり意味がなくなっちゃってます」というのが今の本音です。内閣府の発表とか、官公庁の報道資料だったらいいんですよ。警視庁がオレオレ詐欺撲滅キャンペーン始めましたとか、そういう公共性の高いものなら。企業のものであれば、社会の風潮をどのように反映しているのか─という点を盛り込んでいただきたい。
山田:僕も、中川さんとはちょっと違う意味で、もうプレスリリースをプレスにまいて、お願いして記事を書いてもらう時代ではないのでは、という問題意識があるんです。先日もある新聞記者の方と話をしていて、企業の発表モノをストレートに受け止めづらいっていう話が出てましたね。
片岡:今はネットPRの手法もたくさんありますが、昔ながらのプレスリリースのフォーマットに沿ったものを流すよりも、もっとゆるいもの…それこそ、担当者が日報のような感覚で書いているものを流したほうが効いたりするのかもしれないですね。記者クラブに投げ込む場合には、旧来の形式は必要ですけど。
中川:だから今、PRは非常にやりづらい時代と思うんです。ゴリ押しだのステマだの、ネットで散々騒がれるから企業の人も委縮してしまっている。
片岡:どんな話題にも、今はネガティブな意見が必ず一定量出て可視化されますからね。
中川:いわば、「一億総業界ツウ」みたいになっているんじゃないですか。