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目指すは、個対個のコミュニケーション
藤田:日本の企業ではマーケティングを広告、プロモーションとほぼ同義に捉えているケースが多いと感じています。その中で、寺田さんは「広告部長」という立場にありながら、他部門の人たちも巻き込み、売れ続ける仕組み作りに取り組んでいる方だと思います。なぜ、今のようなお考えに至ったのでしょうか。
寺田:私は技術職として森永乳業に入社し、最初に配属されたのが工場で、その後研究所や商品開発、米国の合併会社のオペレーションなどを経験してきたことなどもあり、広告部にいる今も現場、現物、現実を重視する「3現主義」が染みついていることが影響していると思います。
自ら汗をかかないと、価値は作れないという考えがあって、単に広告を作って流すだけでなく、お客様と直接触れ合うイベントや事業部、研究所、支店の人たちと一緒に作り上げるプロモーションが必要だなと思うのです。
私は2008年の5月に広告部に配属となりましたが、そこでコミュニケーション活動の方針として、
①「Message with Emotion」(メッセージを伝えるだけでなく、そこでお客様と感情を伝え合うこと)
②お客様の態度変容だけでなく「行動を起こさせること」
③「お客様側からの視点」
の3点が重要だと考えました。
広告部長になって最初に思ったのは、馬鹿げた話だと思われるかもしれませんが、私が1億2千万人のお客様一人ひとりと直接、話をして森永乳業のことを知っていただくのが理想であるということでした。
もちろん、それは現実的に無理なので、この方向性だけはぶらさずに、では私自身を代理するもの、伝え方を代理するものは何か、と考えることから広告部の役割を見つけていくことにしました。
このためには、企業発信のメッセージが1人の人が話して見えるようにするべきで、これには社内のメッセージ発信が統一されている必要がある。さらにそのためには、多くの部門を巻き込んで一緒に取り組むことが有効だと思ったのです。
藤田:寺田さんたちは、ノロウイルス対策に効果のある「ラクトフェリン」という素材のPR活動を通じ、「ラクトフェリンヨーグルト」の売上を大幅に伸ばしたり、「MOWクラブ」会員を生産工場に招待し、現地で社員と触れ合う機会をつくられたり、特定のエリアに焦点を当て支店も巻き込んだプロモーションで、その地域でのシェアを拡大させたりしていらっしゃいますよね。それらの活動は「広告部」という名称に留まらず、まさにマーケティングそのものですよね。
上迫:私も20年間、広告会社で仕事をしていたので思うのですが、この世界にいると、ちょっと訴求ポイントを変える、あるいはタレントを変えてみただけのCMを量産することが仕事だと思ってしまいがちですよね。皆がテレビの前に集まる「お茶の間」が成立していた時代では、そうした広告に効果もあったと思いますが、今はメディア環境が大きく変わっています。
広告で見せかけだけの新しさをつくるのではなく、真に社会にとって価値あるものを考え、提案していくことが必要だと思いますし、寺田さんはまさに、そのことにチャレンジをされているのだと思います。
寺田:事業部門制の中での横串部門として、他の部門を巻き込んだ、マーケティング活動を推進できるようになりたい、と思っているので、そう言っていただけるのはうれしいです。
藤田:日本にはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)がいない。CMOが必要だという議論もあります。
寺田:確かにマーケティング活動を統合的に推進する人を置くような組織変革ができれば理想です。しかし、それは広告部の私の仕事の範疇を超えることですし、すぐに実現できるとは思えませんでした。
そこで今は、草の根レベルで自分たちにできるところから、他の部門の人を巻き込んで実績をつくり、全社一丸となってお客様と向き合えるような雰囲気をつくっていこうと考えています。
例えば、「ラクトフェリン」の件は、たまたま当社の基礎研究所の所長が、ふらりと広告部にやってきて、こんな研究成果があるのだけれど、もっとお客様に知ってもらえるようにはならないだろうか、と話しに来たことがきっかけでした。私たち広告部もこの所長のように組織の壁を超えて、他部門にふらりと顔を出して相談ができる、そんなフットワークの軽さがあるとよいなと思っています。
上迫:ふらりと研究所の所長がやってくる…。イノベーションを起こす企業の共通点として偶発的な出来事をチャンスに変えてしまうというところがあるのですが、森永乳業さんのこのケースも、当てはまりますね。
藤田:私自身、新卒で味の素に入社して、メーカーのマーケティングや営業の仕事を経験しているから思うのですが、偶発的な出来事は人と人との触れ合いの中から生まれるものですし、スマートな仕組み論の話ではなくって、実は日々の泥臭い活動から生まれたりするものですよね。
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