彼女がそれを買う5秒前、「背伸びしたいワタシ」の“本能”が背中を押す

【前回コラム】「買う5秒前、何があなたの背中を押したのか?」はこちら

1人の新人OLがいる。トシは22、3。親のコネで中堅どころの商社に入ったけど、仕事にモチベーションを感じず、学生時代から付き合うカレはメーカーに入って名古屋に赴任。当面の悩みは空いた金曜夜の過ごし方という、どこにでもいるOLである。
そんな彼女が、とある週末、雑誌の『CanCam』を買おうと自宅近くのコンビニに入った。左に折れ、窓際の雑誌棚へ。だが、そこでふと別の雑誌に目が留まる。それは、自分よりもちょっと年上をターゲットにした姉妹誌の『AneCan』。この時、ポンっと彼女は背中を押され、気が付けば、『AneCan』を持ってレジへ–。
買う5秒前、何が彼女に心変わりをさせたのか?

——「背伸びしたいワタシ」である。若い女性が雑誌を購入する際、その手の“本能”が、彼女の背中を押すことが少なくないのだ。
そう、本能。

思い返せば、かつてキャバクラ嬢の教科書として一世を風靡した『小悪魔ageha』も、実際の主要読者層は女子高生だったらしいし、その女子高生をターゲットに作られているはずの『Seventeen』も(何しろ誌名が「17才」だ)、今や読者の主体は女子中学生である。そうそう、先のagehaシリーズは、今は姉妹誌の『姉ageha』のみが復刊されていることからも、読者の「背伸びしたいワタシ」志向が見える。
本来、女性ファッション誌は、かなり細かい年齢層までターゲットを絞り込んで作られているはずなのに、結果的に購入している層は、出版社が当初想定した年齢層より下である場合が多い。
彼女がそれを買う5秒前、「背伸びしたいワタシ」の“本能”が、背中をポンッと押したからである。

スタバのブラックエプロンに秘められた意味

僕らが何か買い物をする際、その選考基準の1つに“色”がある。実はそこにも“本能”が隠されているのをご存じだろうか。
もちろん、僕らは好みの色の商品を求めたがる。だが、あなたの身の回りの品々を見渡してもらえば分かるけど、必ずしも好きな色ばかりじゃない。そして大抵の場合、特段好きではないのに買ってしまう色は「黒」である。
 そう、黒。
 その色には不思議な魔力がある。一見、暗くて重いネガティブなイメージだが、その裏には素材感や本物感、高級感といったプレミアムな性格が隠れている。そして僕らは、そんなニオイを瞬時に嗅ぎ取り、時に黒い商品を購入する。

例えば、大画面テレビ。店頭には様々な色が並ぶが、圧倒的多数のお客は黒を選ぶ。高額商品ゆえに、黒の放つ“ニオイ”こそ相応しいと本能的に感じるからである。
また、食品の分野でも、近ごろは黒酢豚や黒烏龍茶、焼酎の黒霧島など、黒をイメージさせる商品が目立つ。それも、人々が黒を通じて“本物感”を嗅ぎ取るからである。黒霧島が「クロキリ」と呼ばれ、瞬く間に焼酎のトップブランドに成長したのも、その名前の持つイメージと無関係ではないだろう。そうそう、最近はライバルの薩摩酒造まで「黒白波」をリニューアルして、米倉涼子をCMに起用するなど大々的に仕掛ける展開に。「黒か白かどっちだよ!」という野暮なツッコミは置いといて–。

モノだけじゃない。黒に惹かれる本能は、サービスにだって見られる。
例えば、新宿通りのマルイの2階にあるスターバックス コーヒー。かの店ではバリスタ(スタバではスタッフをこう呼ぶ)が全員、ブラックエプロンを着用する。通常、スタバのエプロンといえば緑色だが、バリスタの彼らは、コーヒーの知識や経験が豊富な選ばれし精鋭たち。その証しがブラックエプロンなのだ。そして、彼らの“黒”に惹かれるように、連日、多くのお客が押し寄せる。
そう、黒は、送り手と受け手の間を取り持つ、いわば暗号。いちいち説明されなくても、お客はその色を見ただけで、ただならぬ気配を察知して、背中をドンっと押されて入店するのである。

次ページ 「10分エントリーの法則」へ続く

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草場滋(「指南役」代表)
草場滋(「指南役」代表)

メディアプランナー。エンターテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組『逃走中』(フジテレビ)の企画原案、映画『バブルへGO!!』(監督・馬場康夫)の原作協力、雑誌連載「テレビ証券」(日経エンタテインメント!)の監修など、メディアを横断してプランニング活動を行う。著書に『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー』(ダイヤモンド社)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『テレビは余命7年』(大和書房)ほか。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。

草場滋(「指南役」代表)

メディアプランナー。エンターテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組『逃走中』(フジテレビ)の企画原案、映画『バブルへGO!!』(監督・馬場康夫)の原作協力、雑誌連載「テレビ証券」(日経エンタテインメント!)の監修など、メディアを横断してプランニング活動を行う。著書に『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー』(ダイヤモンド社)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『テレビは余命7年』(大和書房)ほか。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。

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