「好きなのにやめてしまう」人が6割~博報堂が習慣行動と意識の関係を調査 ――博報堂行動デザイン研究所

“カイキンコー”で考えよう~行動習慣に必要な三つの要素「快」「近」「効」

では、この「好きだけどやめてしまう」を生み出している無意識の「習慣行動」に訴えかけるにはどうすればよいのでしょうか。

今回の調査では、3つのカテゴリーに共通して習慣行動を本当に支えている意識の中の柱=「支柱」をある程度、特定することができました。それが図にある、「快感」「近さ」「自己効用」の3つで、私共はそれぞれの文字をとって「カイキンコー」と呼んでいます。

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「快感」とは、楽しい、気持ちいい、夢中になれる、自分の可能性が拡がるといった要素のこと。「近さ」(=アクセシビリティ)の中には、店舗が近くにあるなど、購入環境が身近にあるという距離的な要因だけでなく、「価格」要因も含まれます。

つまり、買いやすい“便利な価格”が重要であるということです。単純に価格が安いかどうかではなく、顧客にとって「払いやすい価格であるかどうか」が重要なのです。

例えば「CVSのカウンターコーヒー」は近くで買えて、さらに価格も税込ワンコインと「便利な価格」であることが習慣行動につながっていると考えられます。

「自己効用」とは、商品・サービスが持っている基本効用に、それが自分にとってよいものかどうか、という評価(自己適合感)を加えた要素です。つまり「この商品の機能や価値は自分にいちばん合っている/必要である」と感じられるかどうか。この3つが、習慣行動を支える大きな意識になっていることがわかりました。

「永遠の学習期作戦」&「離脱客より帰還客を狙う作戦」が戦略のポイント

習慣行動を支える3つの支柱とともに分かったことは、習慣行動のモデルが初期仮説のような「安定期」の長く続く台形のようなもの(図1)ではどうもなさそう、ということです。むしろ昇り坂と下り坂があって山頂に平地の少ない、山形のような構造なのではないかと分析しています。

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この分析を踏まえると、習慣行動に結び付きやすいマーケティング施策に関して、大きく二つの方向性が見えてきました。

①「永遠の学習期」を作る

調査結果から「学習期」は「夢中になっている」「達成感を感じている」のスコアや快感要素が高く、ポジティブな要素も高いことがわかっています。したがって、このステージをより長く継続させ、アップセル・クロスセルにつながる仕掛けによって「学習期を終わらせない」工夫が有効です。

例えば「これをもっと続ければさらにいいことがある」とか「ここをクリアすればランクアップして次のステージに行ける」といったこと。「今更やめられない、ここでやめたらもったいない」という意識は、「離脱期」や「安定期」よりもむしろ「学習期」のほうが高いので、こうした意識に訴えかける施策が有効です。

「学習期」をいかに長く引っ張れるかが重要な点と言えます。

②「離脱期後の帰還客」を狙う

「離脱期」は愛着が大きく損なわれているので、よほどインパクトのある施策でなければ響きにくい。商材によっては「出ていくお客さんはあきらめる」、というのも一つの考え方です。ただ、必需性の高い日用品の場合、「ある商品の離脱期は同時に別の商品の学習期」でもあります。

例えばコーヒーなら、特定の銘柄をやめた人はコーヒーそのものを飲まなくなるのではなく、別の銘柄のコーヒーを飲むようになるのが普通です。「学習期」というのは、快感指数が高く高揚感もある一方で、実は「本当にこのブランドに対してもっとリソース(時間やお金など)を増やしていいのだろうか?」と少し冷静に自問自答している時期とも言えます。

なので、離脱期にある自社顧客に対しては「お願いだから残ってください」よりも「本当にそっちのブランドでいいんですか?」というメッセージのほうが有効かもしれません。離脱してしまった顧客に、例えば「あなたがやめた時よりも、我々の商品はこんなに良くなりました」ということを伝えたうえで「本当に今のままでいいんですか?」と問いかける。そうした「(学習期にいる)帰還客を狙う」というアプローチもありではないでしょうか。

当節、1つの商品・サービスのコミュニケーションを1つのメッセージ(ワンボイス)ですべてカバーするのは難しい状況です。特に認知/好意形成を越えて実際の行動につなげるためには、「学習期(の長期化)」を狙うのか、「競合ブランドの離脱期(からの流入)」を狙うのか、など方針を明確に立てて個別に施策を行うほうが効率的だと考えます。

今、自社に最も重要な戦略顧客はどのステージにいるのか。そのステージの顧客行動にフィットしたコミュニケーション/プロモーションになっているのか。これからのマーケティングにはこうした視点が欠かせないと思います。

調査結果の詳細な内容についてはこちら



博報堂行動デザイン研究所
生活者の新しい行動習慣をデザインすることをミッションとした博報堂の専門組織。実際に人を動かした過去のヒットマーケティングの事例研究から、「人を動かす行動デザイン」のプランニングフレームを抽出し、その知見を活かして商品開発から広告制作、プロモーション企画まで幅広い分野でクライアント企業のマーケティング課題解決を支援している。
URL:http://activation-design.jp/

<プロフィール>
國田圭作(くにた・けいさく) 博報堂行動デザイン研究所 所長
入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数、手掛ける。2013年4月より現職

    

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