【前回のコラム】「アップルウォッチから考えるIoTとマーケティングの未来」はこちら
デジタルメディアは広告を迷惑メールにする?
少し前に、東芝のテレビ「REGZA」にTポイントの広告がデフォルトで出現するということが話題になりました。テレビにCMが流れるのは当たり前でも、スクリーンにPCやスマートフォンのようなプッシュ型の広告が出ることについては、視聴者の抵抗があるということでしょう。
たしかにデジタル上の広告は携帯のスパムメールと同様、無断で個人的な領域に足を踏み込んでいるかのような印象を与えます。これはスクリーンを持つデバイスそのものが既にパーソナル化しているという現状を私たちに理解させてくれます。さらに、今後のマーケティングでは、企業がコマーシャルも含めた情報をどう視聴者に届けていくかが重要であるということも示しているように思います。
マーケターは従来、マスの4メディアを中心に、その視聴者や読者に対して広告という枠組みを通してコマーシャルメッセージを伝達してきました。そこにインターネットを通したWebやメールなどのメディアが加わってきたわけですが、広告という枠組みはそのまま踏襲されています。
最近のマーケティングを行う企業側にとっての課題は、情報の受け手であるメディアの視聴者がこの広告を無視したりスキップしたりする傾向が顕著で、従来のような価値が薄れてきているということです。これを補うために企業が行う施策が結果的に広告量を増やすことになり、さらに視聴者から忌避される傾向が強まる、という悪循環に陥っています。
これに対するマーケターの対策は、広告を「売り込み情報」にせず、娯楽のように楽しめるものとして制作し、まずは視聴者の注意を引くという「クリエイティブ」による解決です。これは特にテレビで顕著ですが、新聞でも雑誌でも、そのメディアを見ている人の視聴態度と期待を裏切らずに情報を伝えるために表現を最適化していくという対応は、タイアップ記事やプレースメントのように、これまでも当たり前のように行われてきました。この根本にある発想は、広告をメディアのコンテンツのように偽装するのではなく、飽くまで視聴者がメディア体験を損なわないようにマーケティング情報を提供しているということです。
この視聴者の広告忌避の傾向は、マスメディアよりもインターネットのデジタルメディアでさらに顕著です。というのもデジタルのメディアはデバイスやインターフェイスの特性として、ユーザーとの一対一の体験、パーソナルな体験だからです。スマートフォンのようなデバイスは、さらにこの体験を強化します。その小さなスクリーンに流れるメッセージは、単にCMがテレビで流れているよりも、強烈に個人に向けられているように感じます。これは今まで大勢の不特定多数に向けられていた拡声器が急に自分ひとりに向けられるような感覚です。どんなに周到なクリエイティブ表現でも、スマートフォンというデバイスを通して、迷惑メールに変わったように感じてしまうこともあるでしょう。