NPOの信頼獲得のカギは、第三者による評価

社会課題が山積するなか、その担い手としての役割が年々拡大しているNPOをはじめとする支援団体。そうした団体の多くが“マーケティング・コミュニケーション力”に課題を抱えています。本コラムでは、NPOなどのマーケティングや広報における具体的かつ実践的な手法について、その道のプロ3人がリレー形式で紹介。第1回は、“一人広報の達人”井出留美氏が、戦略的な広報術を語ります。

企業の広報からNPOの広報へ

外資系食品企業の広報室長だった私は、誕生日に発生した東日本大震災を機に、被災地に自社商品を運ぶ支援活動を始めました。会社員の立場だとまとまって休みをとることが難しく、悩んだ末、2011年7月を最終出社日として退職。独立してoffice3.11という個人オフィスを立ち上げました。

ちょうど時を同じくして2011年8月、自社商品を定期的に寄贈していたフードバンクのNPO、セカンドハーベスト・ジャパンから「うちの広報をやってもらえませんか」と声をかけてもらいました。フードバンクとは、まだ食べられるけれど棄てられる運命にある食品を引き取り、福祉施設や生活困窮者など食べ物に困っている人に配分する活動、もしくはその活動を行う団体を指します。

私が勤めていた企業の米国本社は、年間10億円単位で余剰食品を米国のフードバンクに寄贈していました。米国から日本にも話が来て、企業としても廃棄コストが削減できるメリットがあることから2008年から寄贈を始めることになり、私が窓口となりました。そうした経緯もあって、NPOの代表もスタッフも私のことを知っていたのです。5歳から興味を持ち続けている「食」、14年半務めてきた「広報」、青年海外協力隊時代からじわじわと続けてきた「社会貢献」を仕事にできることや自分の仕事に対する考え方や理念とセカンドハーベスト・ジャパンが目指す方向性も同じだと考え、お引き受けすることにしました。

NPOが行う支援活動を広く多くの人に知ってもらいたい

最初に取り組んだのは、日本PR協会が毎年主催している「PRアワードグランプリ」に応募することでした。震災直後、多くのNPOは、身を挺して支援活動に従事していました。ですが、その多くが支援をすることに一所懸命で、自分たちが取り組んでいる活動を社会に知らしめることは十分ではありませんでした。かたや、国を動かす重責にありながら、支援をお願いしても、行動してもらえない行政の方々もいらっしゃいました。せっかくの支援の食料が、「避難所の人数に(少しだけ)合わない」という理由で放置され、廃棄される場面も多く見てきました。

新卒の就職人気ランキングの上位にNPOが並ぶ米国と異なり、日本では、大学生が最初の就職先としてNPOを選ぶことは多くありません。震災時の支援活動は素晴らしいのに、それを知っている人も少ない。そこで、「NPOが全力でぶつかってきた支援活動を広く多くの人に知ってもらいたい」と強く思ったのです。

PRアワードグランプリと言えば、有名な広告会社や大企業の広報部門が毎年受賞する、企業の独壇場とも言えるアワードです。書類審査で、ソーシャル・コミュニケーション部門では、14団体中、3団体が選ばれました。その後、10分間のプレゼンテーションの審査を経て、最優秀賞を受賞できたのです。NPOが丸腰で望んだプレゼンテーションで、実績が伝わったことをとても嬉しく思いました。すでに一定の信頼を得ている企業と異なり、日本社会の中でNPOは、まだマイナーな存在です。自分で自分のことを「素晴らしい」と叫ぶのではなく、第三者に評価してもらい、それを社会に知らしめることが必要です。

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PRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門で最優秀賞を受賞し、表彰される井出氏。

2011年のPRアワードグランプリ ソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞受賞の後、2012年には第1回「エクセレントNPO大賞」に応募し、東日本大震災復興支援奨励賞をもらいました。2013年と2014年には日本経済新聞社の日経ソーシャルイニシアチブ大賞に応募、約400の応募団体のうち、約40のファイナリストに選ばれました。また、2014年には農林水産省の第1回「食品産業もったいない大賞」にも応募し、食料産業局長賞を受賞することができました。

認定NPO法人の信頼度は60%?

企業の広報の場合にも、このような第三者に評価してもらえる顕彰制度に応募し、受賞すれば箔がつくでしょう。NPOやNGOなど非営利団体の方には、特にこのようなことに積極的にチャレンジしてもらいたいと思います。もちろん、非営利団体にとっては、運営費を稼ぐことも最優先なので、省庁や組織の助成金・補助金の募集に応募することも必要でしょう。

内閣府の平成26年度「市民の社会貢献に関する実態調査」(n=1650、全国20〜69歳男女)によれば、NPO活動に対する関心で「とても関心がある(5.5%)」「少し関心がある(38.3%)」の合計(43.8%)より、「あまり関心がない(46.7%)」「あったく関心がない(9.5%)」の合計(55.2%)の方が多いのが実態です。

平成25年6月の内閣府 世論調査(n=1784)では、認定NPO法人への信頼度として「信頼できる」と回答した人が11.4%、「どちらかといえば信頼できる」が52.9%でした。つまり、信頼できる人はおよそ60%である一方、そうでない人は40%に上ります。

全国で5万354団体のNPO法人のうち、寄付した側に税額控除や所得控除などの税制優遇が得られる「認定NPO法人」は、たった1.8%(885団体)に過ぎません(内閣府調査、平成27年8月現在)。その認定NPO法人を対象とし、東日本大震災の後に実施された調査でもこの結果です。やはり、まずは自分たちの活動の意義や理念を知ってもらうこと。そして、オウンドメディアなどで情報発信することはもちろん、第三者にそれを評価してもらう機会を持つことで、信頼性や説得力は増すと思います。

今年は、PRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門の審査委員長に任命してもらいました。企業からの応募が多いと思いますが、NPOやNGOなど、非営利団体からの応募作品も拝見できることを願い、楽しみにしています。

マーケティング コミュニケーション実践論
マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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