“マーケティング=広告”からの脱却
—自己紹介を兼ねて、簡単に事業の説明をお願いします。
新垣:数理モデルシミュレーション技術で企業のマーケティングを支援するファインドパースという会社を2013年に設立し、代表を務めています。鳥取大学教授の石井晃教授が考案した「ヒットの数理モデル」をマーケティングに応用し、企業の商品・サービスに関するネット上の話題数から、口コミをはじめとする効果の可視化、メディアにおける広告効果の測定など、マーケティングの予算配分の最適化などをサポートしています。
安部:前職のコンサルティングファーム時代に企業のマーケティングに携わる機会が多く、米国はマーケティングを経営の根幹にしている一方、日本の場合は“マーケティング=広告”と狭義に捉えられており、圧倒的な差があると感じていました。先端技術の基礎研究開発では米国にも負けていないにも関わらず、技術をビジネスに応用するカルチャーが日本にはあまりない。技術を駆使してマーケティング大国になるべきだという思いから、2010年にフロムスクラッチを立ち上げました。現在はワンプラットフォームでマーケティング効果の最適化・最大化を実現するサービスの開発・提供をしています。
ジュリアン:私はもともと日立製作所で核融合や加速器の開発などをしていました。その後ヤフーでCGM( コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)事業の立ち上げを通じて、情報が人に与える影響そのものを指標化したいという考えに至り、エコノミックインデックスを設立しました。株価や売上、支持率、視聴率などといった人々が情報に接した結果の数値と、情報の因果関係をリアルタイムで可視化するサービスを提供しています。それにより、これまで見えなかったユーザーの行動や社会のトレンドなども予測することができます。
企業の“企み”がバレてきている
—現在、企業が抱えるマーケティング課題のなかで最も大きなものは何だと捉えていますか。
安部:マーケティングというものの範囲をどう捉えるかということだと思います。これまで日本はプロダクトアウトで成功してきた国なので、とにかく良いモノをつくり、そしてその良いモノの定義は企業側が決めてきた。ただ、そうした時代はとうに終わっています。発想をプロダクトアウトからマーケットインにシフトし、マーケティングを広義に捉えなおさない限りは、グローバルな市場で勝つことは難しい。マーケティングとは、“誰に何をどのように売るか”ということですが、マスマーケティングが中心だった日本ではこれまで“誰に”と“何を”は決まった前提で、“どのように”だけがひたすら追求されてきました。それがすなわち広告主軸のマーケティングだったわけですが、現在はマーケティングの本質的な意味に立ち返ることが求められています。
新垣:そろそろ無視できなくなっているのは、企業の多くの“企み”がユーザーにバレてきてしまっているということです。最近、ステルスマーケティングが社会問題化していますが、その背景には企業によるマーケティングがどんどん巧妙になっていくに伴い、その巧妙さゆえに、受け手を白けさせてしまっていることがあると思います。
広告であるかどうかにかかわらず、コンテンツそのものが面白ければ良いというユーザーがいる一方で、逆に引いてしまうユーザーもいて、その二極化はさらに進んでいくのではないでしょうか。ただそれは、テレビをはじめ多くのメディアがたどってきた経緯でもあり、ネットの世界でも、マーケティングとしてどのように機能するのかを見極める重要性が高まっています。
ジュリアン:ユーザーが多様化してニーズが捉えづらくなり、情報の伝達速度が高度化するなかで、マーケティングそのものが複雑化しています。現在はテクノロジーによって将来的なニーズを予測することも可能になっており、それを実現する根幹をなすのがデータです。しかし、マーケティングが現場単位で捉えられがちな日本企業の場合は、データが活用しづらい。本来マーケティングは、組織全体に関わるものとして捉えられるべきで、グローバルスタンダードを踏まえても、大きな課題と言えるでしょう。
新垣:多くの場面でデジタル化が進み、最近はIoTによってあらゆるモノがネットと接続されるようになっています。デジタルとリアルはどんどんシームレスになり、そうなるとマーケティングも“点”ではなく“面”でプランニングする必要があります。当然、マーケターに求められるスキルも変化しますが、ジュリアンさんが言うように、組織的な問題もあってマーケティング全体を司れる人材が不足しています。