【前回記事】「箱根路を行く!東洋大の駅伝広報(1)大手町で号砲一発!選手と併走で「数秒」にかける」はこちら
箱根駅伝は関東地区限定とはいえ、30%近くの視聴率をたたき出す、大晦日のNHK紅白歌合戦と並ぶ年末年始の2大番組です。
しかも、毎年選手たちのドラマがあり、飛びぬけたアスリートの存在だけでは勝つことのできない、「襷(たすき)をつなぐ」というチームプレーによって初めて栄冠を手にすることができます。この駅伝という競技はどこか、日本人のメンタリティに強く訴えかけるものがあるのではないでしょうか。
「ロケットみたいに飛んで!」ガムシャラ口町への注目
新年最初に大きな感動をもたらす箱根駅伝は出場校にとって大きな広報活動の機会です。各大学の有名選手や注目選手、監督たちの言動など話題に事欠きません。特に11月に行われる全日本駅伝からお正月まで、駅伝に関する話題はネット上に駆け巡ります。
東洋大学にも注目選手が多く、特に、世界を目指す服部勇馬(4年/2区)・弾馬(3年/3区)は兄弟揃ってのラストラン、そして全日本で大活躍した口町亮(3年/6区)には多くの取材依頼が殺到していました。また、各選手たちの地元ローカル局や地方紙からの取材も多くあります。こうしたご当地の選手たちが注目を浴びることも箱根駅伝の見所のひとつでしょう。
6区を走った口町のガムシャラさは広報課でも注目していましたが、メディアの皆さんも見逃がすわけがありません。全日本駅伝での活躍は、一躍スポーツ情報誌のWeb版で大きく取り上げられる存在となりました。ちょうど昨年下期に流行ったドラマ『下町ロケット』(TBS)にかけて、その走りを「口町ロケット」と称している記事もちらほら。箱根駅伝の事前公開練習の取材では「ロケットみたいに飛んで!」とかいろいろなポーズのご要望もあったほどです。
データマイニングで浮かび上がる、愛され五郎谷への注目
箱根駅伝の一つのクライマックスになる山登りの5区では毎年数々のドラマが生まれ、それを制した選手を「山の神」として称えます。東洋大学では2009年初優勝の立役者・柏原竜二選手が「新山の神」といわれていたことは皆さんのご記憶にもあるのではないでしょうか。
今年5区を走るのは、五郎谷(ごろうたに)俊(4年)。監督やコーチ曰く、5区は記録ではなく、「山登りの適性」が必要なのだそうです。周囲から「五郎ちゃん」と呼ばれ、皆に愛されている選手です。山登りは今年で2回目、去年の不振を挽回するべく1年間を過ごしてきた広報課でも注目の選手でした。
ただ、個性的な苗字ゆえ、少々気になっていたのが去年大活躍したラグビーの「五郎丸」選手。しかも五郎谷が走る5区で流れるCMでは五郎丸選手が出てきたり。やっぱり間違えてしまいますよね。広報課ではTwitterなどを分析すべくデータマイニングを活用しており、苗字に関するたくさんのつぶやきがヒットしていました。
駅伝中も常にこうしたデータマイニングは稼動していて、話題の量を可視化することで広報活動をアシストしてくれています。
練習所から往復3時間通学…「学生アスリート広報」の事情
さて、こうした有力選手を擁する東洋大学には多くの取材のご依頼をいただきます。しかし、東洋大学のアスリート広報のスタンスは、あくまでも学生スポーツとして捉えているのでどちらかというと控え目に映るかもしれません。
これには少々事情があります。
箱根駅伝を走る東洋大学の陸上競技部長距離部門の選手たちの合宿所と練習場所は、埼玉県の川越キャンパス。多くの学生は経済学部所属で、学びの場は東京の白山キャンパス。なんと毎日往復3時間かけて通学しているのです。
朝5時から練習開始、9時から東京のキャンパスで勉強、将来を見据えて教職課程を取っている学生も多く、授業終了は18時。その後埼玉にある合宿所に戻り練習。このように練習と大学の授業がいっぱいのとてもストイックな生活をしているのです。
少し皆さんの抱かれる学生アスリートたちの印象とは異なっているのではないでしょうか?取材を受けたいけれどままならない。実はこうした状況によりすべての取材にお応えできていない状況なのです。
また、取材によって試合前に過度な期待を抱かせるのも選手のメンタリティを考えると良し悪しもあるようです。都度、監督やコーチに確認しながら取材対応しているのです。
あくまでも学生であり、やはりメディア慣れしている選手ばかりではありません。そうした初々しさや彼らの魅力でもありますが、このあたりはプロ選手とは違う広報のスタンスを持つことも重要なのかもしれません。
(つづく/次回は1月8日に更新します)
榊原康貴(さかきばら・こうき)
東洋大学 総務部広報課 課長
東洋大学で教務、入試、専門職大学院設置、就職・キャリア支援、通信教育などを担当。2012年6月より広報課へ。学校法人全体の広報活動や大学ブランディングに注力。15年3月に修了した大学院では、学生不祥事に関わる大学の責務や危機管理について研究。日本広報学会所属。