採用とは誰の仕事だろうか?実はまともな人事ほど「私の仕事です」と言い切らないのではないか(もちろん、その仕事に責任を持つ姿勢は評価したい)。採用活動とは、昔も今も人事「だけ」の仕事ではないのだ。経営者から若手社員、さらには内定者まで巻き込んで行うべきである。採用活動には会社と社会、その求職者の未来がかかっている。総力戦で取り組むのだ。
人事部だけで採用活動をやっている企業は存在する。これも一つの作戦ではある。現場の社員の負担は減る。人事部に魅力的な社員を揃えれば、企業を魅力的に見せることができる。企業の悪い部分も見せずにすむ。ただ、これは現場のことを見せる、現実を伝えるなど、やり方を気をつけなくては、ミスマッチ、ギャップの大きな採用にもなり得る。
全社を巻き込むくらいの勢いで採用活動をすると、やりようによっては人事部だけでやる以上の成果を出すことができる。採用委員会や、人材開発委員会など、部門横断的な組織を立ち上げて採用や人材マネジメント改革に取り組んでいる企業も存在する。人材戦略の立案から、求人広告や会社説明会、面接、内定者フォローに社員を総動員する。
この「全社を巻き込んだ採用」なるものはどこの企業でも行っていそうなものに思えるかもしれなないだろう。ただ、これを効果的なものにするにはコツがいる。カタチだけになっていて、機能していないケースも枚挙に暇がない。
まず、取り組むべきことは社員リサーチである。自社の社員の出身大学(可能であれば出身のゼミや研究室、サークルも)、社内での異動歴、トピックス的な仕事を把握しておきたい。この情報を整理しておくと、ターゲットとしたい大学との接点になり得るし、求職者に紹介するべき社員は誰なのかということがよくわかる。こんなタイプの学生を採るには、誰をぶつければいいのかなどもよくわかる。人事部で把握しているデータをまずは確認してみよう。社内のニュースチェックも怠らずにいきたい。
何より、社員に採用活動を始め、人材マネジメントの方針について発信し、理解を求めることが大事である。少しでも知っている社員が多い方が、仕事も頼みやすい。もっともこの辺りはバランス感覚が大事で、経営者や現場の社員に情報を発信し、意見を聞くことは大事だが、流されすぎてもいけない。会社と社会の未来にとってどうなのかという視点も持ちたい。
採用活動とは、戦隊ものである。人事部内でも、企業全体でも、それぞれ個性の違う人を巻き込んで臨み、成果を出したい。採用活動が楽な時代など、存在しない。成果を出すためには、組織として取り組むことが大事なのだ。
常見 陽平 氏
評論家・コラムニスト
一橋大学商学部卒業。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。2014年3月に一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。著書に『なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?』(日刊工業新聞社)、『「 就社 」志向の研究』(KADOKAWA)、『「できる人」という幻想』(NHK出版)。
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