【前回】「鈴木健×田川欣哉×佐渡島庸平「イノベーションが加速する時代にコンテンツのつくり方はどう変わる?」【前編】」はこちら
身体性、操作性がコンテンツの重要なファクターになる
佐渡島:一口に「コンテンツ」と言っても、僕たち3人のイメージするものは全然違うかもしれません。お2人は、どんなコンテンツが重要で、これからコンテンツはどう変わっていくと思いますか?
鈴木:コンテンツは中身という意味なので、箱であるコンテナの形式が定まって、初めてコンテンツと呼べるわけです。今はコンテンツとコンテナの境界線があいまいで、よく分からないんですよね。
多分、何かをクリエイトする人たちは、作品そのものをつくっているわけではなくて、作品を通じて、それを見たり聞いたりしている人の中に、ある感覚を引き起こそうと意図しているはずです。僕が本を書くときもそう。そこでどんな新しい感覚を生み出していけるかが現代のチャレンジです。
社会が「こういう見方でものを見なさい」と決めつけた感覚を開放したい。そのために「コンテンツ・コンテナ」を超えたコンテンツやプラットフォームのテクノロジー、デザインの方法が模索されているのです。
田川:僕が扱っているのは人工物。つまり、道具と環境です。特に道具については、人間の身体性と近いところに妙味があるので、今の話はとても気になります。
SmartNewsがはやった理由のひとつは、横スライドのタブ型インターフェースがスマートフォンの操作性と相性が良かったことだと思います。縦スクロールと横スクロールの2つに操作系を集約したことで、単純なフリック動作の反復からいろいろな情報が出てくる。そこに気持ちよさが生まれた。あのフリックの感覚は新聞や本をめくる感覚とも似た部分がありますよね。ああいう反復動作は人を落ち着かせ、思考をフロー化するそうです。
ニュースメディアが持つ機能性と指先の身体性。その二つが絶妙に混ざり合うところに、本当に考えなければいけない領域がある。その領域でものを実装するには、テクノロジーが分かっていないといけません。そういう今の時代の象徴として、SmartNewsはあるのかなと思います。
鈴木:鋭い指摘ですね。フリックの気持ちよさにはかなりこだわりました。
田川:3年前にあのフリックの反応速度を実現するのは、相当難しかったでしょう?
鈴木:いわゆる「めくる」操作はアップルも標準で用意しているんです。でも、それだと気持ちよくならないから、独自に実装して、角度も1度単位で調整しました。ギリギリのチューニングです。
田川:僕が今興味を持っているのは、2020年にどんなメディアが来るかということです。テクノロジードリブンで入ってくる以外ないと思いますが、そこでコンテンツはどう再定義されるのかな? 身体性とコンテンツの接地点をどうデザインするかという話に落ちざるを得ないと思います。
鈴木:バーチャルリアリティが来ると言われていますよね。そうなると、視覚と聴覚が中心になるわけだけど、やっぱり触覚は欲しいよね?
田川:そこで言う触覚って、ビジュアルハプティクスの世界ですよね。自分の身体がどう運動しているかという自意識に、視覚が連動することで、あたかも触っているかのように脳が誤解をする。
オキュラスリフトのような話ももちろんありますが、今60フレームで動いているiPhoneの描画性能が、1万フレームで動くようになったら、同じスマートフォンでも、全く違うメディアになっている可能性があります。もう既に1000フレームぐらいまで可能になってきたと聞いています。
佐渡島:先週、アメリカでマイクロソフトの「ホロレンズ」(視界に3Dの仮想オブジェクトを重ねて表示できるホログラムコンピューター)を体験してきました。これまでと全く違う楽しさや没入感を体験しながら、一方で「このコンテンツを誰がどうやってつくるのか?」と疑問が浮かんだばかりです。
ニュースアプリも、つくり手は今まで「どうやっていいニュースを集めるか」を考えてきたと思います。それが「操作性が気持ちよくて毎日触りたくなることが一番重要だよね」という考え方に変わるのは画期的だと、お2人の話を聞いて思いました。