株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第6号(2016年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。
「ブルー・オーシャン戦略」(以下BOS)は、世に問われてからすでに10年を超え、その「言葉」は日本のビジネス界でも広く知られています。しかし肝心な革新性のポイント、本質の理解がなかなか進まず、我々関係者から見ると、「もったいない、日本企業は損をしている」と思われて仕方ないのです。
BOSの定義は、「ノンカスタマー(非顧客)を取り込んでの市場創造」という説明が、日本では最もわかりやすいでしょう。海外ではポーターの「競争戦略」との対比で語られ、そのため「競争(戦略)のない」戦略という表現になるのですが、専門家以外には理解しにくいと思います。このポイントに興味のある方は拙著『ブルー・オーシャン戦略を読む』(日経文庫)をご一読ください。
どこの会社でも、お客さまを大事に、とかCS(顧客満足)という言葉は根付いていると思います。カスタマーを中心とした、コトラー流マーケティングの影響下と言ってもいいでしょう。それに対し、BOSはいかに「ノンカスタマー」を取り込むかという観点で実行します。あるいは、BOSの別表現として「新規事業、新商品開発への組織的取り組みの理論、方法論」と言ってもいいでしょう。このように説明すると、よく「では、クライアントはベンチャー企業、スタートアップですね?」と尋ねられます。その背景には、新規事業は小さな組織で行うものという思い込みもあるようです。
BOSは対象となる組織のサイズは問いませんし、大企業を動かす仕組みがあるのです。我々の経験でも、中堅企業から数兆円企業まで、あらゆる企業が実施しています。
さて、最初の定義である「ノンカスタマー」に戻ります。ノンカスタマーと言っても取り扱いが難しいので、BOSでは大きく3層に分けて考えます。
実は既存カスタマーの中にもノンカスタマーがいます。それを第1層「すぐにでもノンカスタマー(soon-to-be noncustomers)」と呼びます。他に良い商品が見つからない、近所に他の良い店がないという理由で現在はカスタマーなのですが、もっと良いもの・良いお店ができればすぐにスイッチしてしまう。カスタマーに見えて、BOSではノンカスタマーなのです。
次に第2層「拒否するノンカスタマー(refusing)」です。検討したが、何らかの理由で購入しなかった。例えばプラグインハイブリッドの車を買いたいが、マンションの駐車場に電源がないため買えない人がいます。
そして第3層「未開拓のノンカスタマー(unexplored)」は、業界側も当初は顧客になるとは思っていなかった層です。メガネブランドのJINSは「対花粉症」「対ブルーライト」などのユーティリティを提供することで、これまでメガネをかけなかったノンカスタマーを取り込み、需要を創出しました。BOSがマーケティングと異なる点は、対象とする市場セグメント毎のニーズの「違い」に応えて提供する(STP)アプローチでなく、ノンカスタマーに「共通」した悩み・痛点を除去し、ユーティリティを提供し、大きな需要をつくっていくことです。
原著者たちが指摘するように、ソニーは既存カスタマーの声を聞き、サイズを軽量化し、ディスプレーの画質を向上した電子書籍リーダー「PRS」を2006年に開発しました。しかし成功したのは、ノンカスタマーの「電子書籍はタイトル数が少ない」という悩みに応えた、アマゾンのKindleでした。翌2007年の発売後、わずか6時間で売り切れたのです。
安部義彦
京都大学卒業。INSEAD MBA取得。
在学中よりW.チャン・キム教授に師事。ボストン・コンサルティング・グループ、A.T.カーニーを経て、2007年に価値革新機構を設立し代表取締役に就任。国内で唯一のBlue Ocean Strategy Qualifi cation保有者として教授資格を授与される。内外一流企業の新規事業策定プロジェクトに携わる。『ブルー・オーシャン戦略を読む』など著書多数。内外主要経営大学院で講演・講義多数。
池上重輔
早稲田大学大学院商学研究科 准教授。
一橋大学にて博士号(経営学)、英国ケンブリッジ大学にてMBA、ボストン・コンサルティング・グループ、MARSジャパン、ソフトバンクECホールディングス、ニッセイキャピタルを経て現職。早稲田大学にてグローバル企業向けのさまざまな幹部教育を行う。『日本のブルー・オーシャン戦略』(共著)など著書多数。
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