到達実態を知る~その1~ 録画再生視聴を加えるとCMはどれだけ到達しているのか

宣伝会議から発売する『CMを科学する』の著者で、デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏による、新たな「宣伝部の変革」をテーマにしたコラム。ネット黎明期からデジタルマーケティングの理論化・体系化に取り組み、ビジネスとして実践してきた氏が、リアル、マスをデジタルと融合した真のデジタルマーケティングのあり方について語ります。

今日から始まるアドタイでの連載『CMを科学する』では、まず、テレビCMがどの程度視聴者に到達しているかを正確に知るために、いくつかのデータを見てみることから始めたい。その1は、「録画再生視聴でのCM到達も加えるとどうなるか」というテーマだ。

周知のごとく、米国ではテレビ視聴率に関しては録画再生の視聴率も含めて評価している。放送後3日間までの「3+」、7日間までの「7+」というような用語があるように、リアルタイム放送と録画再生を足しあげた視聴率で評価する仕組みができ上がっている。日本でもビデオリサーチ社が来年からシングルソースでリアルタイム視聴率と録画再生視聴率を測定し、データ販売することを発表している。そのため、従来の関東地区600世帯という視聴率パネルは900世帯へと拡大する。

どうも日本では「録画再生で視聴はされてもCMはほとんどスキップされてしまうから意味がない」という論調が幅を利かせている。しかし、実態は必ずしもそうではない。録画率及び録画再生率、CMスキップ率は、番組によって非常に大きな差がある。どんな番組でも、再生時にCMはほとんどスキップされてしまうわけではなく、スキップされないで視聴されているCM量は、場合によってはリアルタイム視聴のそれより多くなるケースがある。こうなるとしっかり測定しておかないといけない。

そして、筆者のデータでは、リアルタイム視聴時のCMよりも録画再生視聴時のCMの方が「視聴質」が高い可能性がある。

そもそもテレビ番組の編成権は、局の編成から視聴者に移って久しい。タイムシフト視聴という視聴行動は本当に根付いている。4K放送になったら録画できなくするなどというナンセンスな議論もあるが、それは自分の首を絞めるだけだろう。無理やりリアルタイム放送時に視聴させようとせず、ユーザーの時間で視聴してもらうための様々な工夫と努力でコンテンツの到達をトータルで考えなければならない。

さて、録画率・録画再生率は番組のジャンルによってまったく違うことがわかっている。

録画再生視聴率はドラマ、アニメ、次いで映画の順で高い。ドラマは連続ドラマか単発かでも違いが出てくる傾向にあり、アニメ、映画はコンテンツや時間帯によって違いが出るようだ。アニメは再生時のCMスキップ率が低い。これは子供がCMをスキップするリテラシーが低いのと、CM自体にキャラクターが出てくるなど、コンテンツ化しているからではないかと推測できる。

一方、スポーツ中継、ニュース/報道、情報ワイドショーなどは非常に録画率・録画再生率が低い。バラエティや音楽番組は、ドラマ・アニメ・映画よりは低いが、スポーツ中継、ニュース/報道、情報ワイドショーよりは高いと言ったところだ。

顕著な例では、一部のドラマはリアルタイム視聴よりも録画再生視聴率の方が高くなる。
図は、上があるスポーツ中継で、下があるドラマである。

まず、解説しておかなければならないのは、ここでいう視聴割合というデータは、機器別データで世帯別データではない。つまり、家に3台テレビがあって、そのうちの1台が視聴されていると、ビデオリサーチでは世帯視聴率100%だが、東芝レグザデータでは33.3%という視聴割合ということになる。

※東芝のテレビ「レグザ」のレグザクラウドサービス「Time One」に登録する際に視聴ログを取得する許諾を得た21万台を超えるログ提供許諾機器から1日約1700万レコードを収集したテレビ視聴データ

そのうえで見てほしい。
スポーツ中継では、リアルタイム放送の視聴割合は11.0%、ドラマは4.1%と3倍近い差があるが、録画再生率はスポーツ中継が0.4%に対して、ドラマは11.3%もある。さらにここではCMのスキップ率も測定しているので、CMの最終的な到達量を、リアルタイム放送CMチャンス時のものと録画再生時にスキップせずに見たものとを足しあげている。

そうすると、リアルタイム放送の視聴割合が11.0%だったスポーツ番組のCMのトータル到達量は8.4%であるのに対して、ドラマの方は8.5%になってなんと逆転する。通常のようにリアルタイム放送時の視聴率だけで評価していると、11.0 : 4.1が、実態は8.4 : 8.5ということになる。

生活者の可処分時間がどんどん短くなっている現代で、送り手側のタイミングだけを見て、テレビ番組の録画再生視聴を無視することはできない。受け手側主体の測定をして実態を把握することは、テレビに大きな広告費を投じている企業にとっては大変重要なことである。さらに、大きな予算を投じているがゆえに、データで科学することで、そのパフォーマンスが何%かでも良くなることは、広告主だけでなく、テレビ業界、広告業界にとっても、良いことだと思う。

次回は、到達実態を知る~その2~ 「ターゲットは何人で、何回ずつ見ているのか」です。

横山 隆治(デジタルインテリジェンス 代表取締役)
横山 隆治(デジタルインテリジェンス 代表取締役)

1982年 青山学院大学文学部英米文学科卒。同年株式会社旭通信社入社。
1996年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社を起案設立。
代表取締役副社長に就任。2001年同社上場。
2008年 株式会社ADKインタラクティブ設立。同社代表取締役社長に就任。
2011年 株式会社デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

ネット広告黎明期からビジネスの実践とデジタルマーケティングの理論化・体系化に取り組む。

宣伝会議より『CMを科学する』(2016年4月15日発売)を刊行。

ほか著書に
『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)
『新世代デジタルマーケティング ネットと全チャネルをつなぐ統合型データ活用のすすめ』(インプレス)などがある。

横山 隆治(デジタルインテリジェンス 代表取締役)

1982年 青山学院大学文学部英米文学科卒。同年株式会社旭通信社入社。
1996年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社を起案設立。
代表取締役副社長に就任。2001年同社上場。
2008年 株式会社ADKインタラクティブ設立。同社代表取締役社長に就任。
2011年 株式会社デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

ネット広告黎明期からビジネスの実践とデジタルマーケティングの理論化・体系化に取り組む。

宣伝会議より『CMを科学する』(2016年4月15日発売)を刊行。

ほか著書に
『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)
『新世代デジタルマーケティング ネットと全チャネルをつなぐ統合型データ活用のすすめ』(インプレス)などがある。

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