【前回コラム】「「視聴率」だけでは本当のCM効果はわからない 「視聴質」とは何か」はこちら
周知のとおり、日本では極めて激しい少子高齢化が進んでいる。そして、テレビ視聴時間は高齢層では極めて長く、若年層では短い。また若年層の特徴は、まったく観ないという人がジリジリと増えていることだ。
『CMを科学する』の中でも取り上げているが、こうした少子高齢化と視聴時間格差の結果、特にテレビスポットでまんべんなく投下すると、CMは大半が高齢層に当たる結果になる。つまり若年層を中心とする<CMが一回も当たらない、もしくは1~2回しか当たらない>過少フリークエンシー集団と、高齢層を中心とする<CMが20回以上も当たっている>フリークエンシー過多集団に二極化する現象が起きてしまう。
テレビスポットプランの場合、GRPはリーチとフリークエンシーに因数分解できるので、リーチが〇〇%で、平均フリークエンシーが〇・〇回ということを広告代理店が言うと思う。しかし例えば平均フリークエンシーが6回だとして、フリークエンシー分布(0回の人が何人、1回の人が何人・・・)はこの平均である6回のところで正規分布しない。
GRPが1000程度までだと、0回か1回が多く、フリークエンシーが多くなるほど漸減していき、20回以上の人を全部足し上げるとこれが相当多いということになり、過少フリークエンシーとフリークエンシー過多に二極化する。
また、ここでも若年層では、いくらGRPを足しても、まったく当たらないターゲットを減らすのが難しくなる。若年層がターゲットの場合は、テレビだけでのターゲットリーチのコスト効率が悪くなる。ゼロから一定のところまでのリーチ効率では若年層であっても、いまだテレビの到達力にかなうメディアはない。しかし一定以上になると、CMのほとんどが高齢層に当たってしまうので、若年層ターゲットリーチは頭打ちになってしまう。ここはスマホなどのデジタルデバイスなど他のメディアで補完せざるを得ない。
一方、高齢層にはフリークエンシー過多の人たちが多く出現してしまう。テレビばかり観ている人には同じCMが20回も30回も当たる。1000GRP以下でもこうした現象は起きている。これが、もっと大量投下であれば、高齢層に当たる量は推して知るべしというところだろう。
フリークエンシー過多の視聴者があまりに多過ぎることは単に無駄な出稿というだけでなく、「過ぎたるは及ばざるが如し」でネガティブな反応になりかねない。お客様相談センターに「おたくのCMはいったい何回放送するの?しつこいわよ!」とクレームの電話が入ることもある。
高齢層がよく観る「サスペンス劇場」などにスポットを多く引くと、当たり前だが、高齢層へのフリークエンシー過多を顕著にする。これを補正するための出稿案はある程度考えられるが、構造的に高齢層の人口が多くて視聴時間が長いので、根本的な解決はできない。
筆者は、若年層を狙うなら、もっとそうしたターゲットが視聴する番組を「世帯視聴率が低くても」ちゃんとつくって提供していく方が理に適っていると思う。深夜でも関東ローカルでも、場合によってはBSでも、番組コンテンツでターゲティングすることをもっと考えたほうが良さそうだ。
あまりに世帯視聴率ベースで番組をつくるので、結果高齢層の視聴ばかりを促すコンテンツになってしまってはいないか、テレビ業界関係者は考えたほうがいいだろう。若年層が視聴しなくなっているのは、若年層が観たい番組がないからでもある。
「若年層だからスマホで」なのではなく、若年層でもテレビで視聴してもらわないと訴求できないことはいっぱいあるのだ。テレビメディアが今後も生き延びるためには少子化とはいえ、これから消費の主役になる層が求めるコンテンツ開発の努力を惜しまないで欲しい。ディストリビューションをVODに求めればいいというものではない。