半歩だけ正しい方向に、ズレているから世界を変えられる
私たちは過去、たったひとつの広告表現が世の中の消費マインドを変えてしまう事例を目にしてきたが、このような一瞬で「モノの見方」を変える魔法(表現ノウハウ)を事業会社の人間は持ちえない。と言うよりも、持っている必要がないし、持っていても価値がない。だからクリエイターは、事業会社から頼りにされる存在なのである。
例えば昨今、お一人様の食事が増えている。テイクアウトして家やオフィス、コンビニ・スーパーのイートインコーナーで、スマホを操作しながら手早くランチや夕食を済ませている。しかし、気の置けない仲間と連れだった会食の場で、もしくは目の前の人のことをもっと知るための歓迎会や接待・合コンの場で、ランチなら1時間、夕食なら2時間、たくさん語り合う楽しさは、いつまでも記憶に残り、共通の思い出話としてたびたび登場する。一人であっても、気さくでお人好しな大将や、博学でおしゃべりなソムリエ、数十年もその街と人を見てきたバーテンダーと会話をすれば、新たな発見を授かる機会となる。そんな人生における素敵な時間を、スマホ片手に黙って食事を済ませるときに得ることはごくごく稀だろう。
このような外食の意義や素晴らしさを思い出してもらうために、事業会社は地に足ついた策をいくつも実施している。そこへ、例えば今年の「宣伝会議賞」で銀賞を獲った「現金??あぁ、あのポイントつかないやつ?笑」のような「モノの見方」を一瞬で変える力を持ったコピーに、魅力的な語り手と映像・音楽を加えた完成度の高いメッセージによる援護射撃があれば、事業会社の施策の実効性はより高まり、新しい消費の潮流を定着させることができる。
本コラムの第1回で、最短の時間で最大の効果を生む映像表現の力を語った長谷部守彦氏に代表される広告表現の達人やAdvertising Week Asia開催に奔走した笠松良彦氏に代表される熱狂(潮流)を創り出す達人は事業会社に存在しえない分、事業会社からの期待が大きい。そして世の中をもっと明るくしよう、皆の心をもっと幸せにしよう、と常に前向きな心を持ち続ける広告界の人の存在自体が、この社会にとって何より重要であると私は思う。
ぐるなびの忘年会促進キャンペーンの一例
最後の達人はまだ見ぬ存在、運用型広告のエースである。