【前回コラム】「7つの戦略論をコンパクト解説 その1「ポジショニング論」「ブランド論」「アカウントプランニング論」」はこちら
これまで紹介してきた「違い」を重視するポジショニング論、「らしさ」を重視するブランド論、「深層心理」を重視するアカウントプランニング論。これらはすべて、商品や企業の「メッセージ」をお客さんに「伝える」アプローチであるという点では、実は共通していますよね?
しかし、商品の差別性がつくりづらくなり、関心も下がっている。日々触れる情報量が加速度的に増え、疑いの目をもって広告を見る人が増えてしまった。お客さんが勝手に情報を調べてくれるなんていうのは、関心度・関与度の高いほんの一部の商品だけ…という環境の中では、そのアプローチそのものに限界があるんじゃないか、という問題意識が生まれてきました。
そこで最近注目を集めているのが、7つの戦略論の最後の2つ「エンゲージメント論」と「クチコミ論」です。一方的に何かを伝えるのでなく、お客さん側からの行動を引き出すアプローチ。まだ理論も手法も確立しきってはいないものの、新しいチャレンジが次々と生まれてきている領域です。
重要なのは「伝える」ではなく「関与してもらう」
お客さんが自ら関わりたくなるような施策を通して、共感しあう関係をつくる戦略。ゆるい関与を狙うもの、深い関与を狙うもの、短期的なキャンペーンセントリック型施策、中長期的なオールウェイズオン型施策などいろんなアプローチが模索されている。
広告(アド)が送り手に情報を伝えて、受け手は受動的に見るものだとしたら、エンゲージメントは、受け手の関与を引き出すために、なんらかの働きかけをする手法。具体的な関与としては、いいね!、リツイート、広告のクリック、コンテンツの閲覧、イベントへの参加、動画の視聴などがあげられます。
そもそも世界の広告業界に「エンゲージメント的なもの」が登場したのは、2001年の「BMW Films」がはじまりといわれています。そして2007年頃には、カンヌ広告祭などでエンゲージメントが注目されるようになりました。
映画、音楽、ゲームなど、お客さんが関心を持ちやすいコンテンツにブランドのメッセージを練り込んでいく「ブランデッドコンテンツ」、日々使う道具にブランドのメッセージを練り込み、興味・共感を高めようとする「ブランデッドユーティリティ」といったキャンペーン手法が注目されるようになります。
カンヌで話題になった懐かしい名作事例でいうと、前者はBurger King「Subservient Chicken(従順なチキン)、Intel×Toshiba「The Beauty Inside」など、後者はUNIQLO「UNIQLOCK」、NIKE「NIKE+ FuelBand」などがありますよね。コンテンツの力で短期間で瞬発力をもって多くの人が関与・参加したくなる「キャンペーンセントリック型」が盛り上がりをみせました。
また、2010年頃になると、ソーシャルメディアの普及などにあわせて、中長期的にファンをつくる「オールウェイズオン型」のエンゲージメントが広がっていきました。ソーシャルメディアやオウンドメディアを活用してお役立ち情報を継続的に発信したり、Twitterで企業や商品とは関係ないゆるいやりとりをしたり、商品開発に参加してもらったり、コミュニティをつくって交流を促すなど、顧客の行動を引き出すような戦略がこれにあたります。
前々回のコラムで紹介したブランド論が、自ブランドの価値を感じ取ってもらって「好意」を持ってもらうアプローチだとすれば、エンゲージメント論とは関与を通して、「共感」してもらいながら、友情をはぐくむアプローチといえるでしょう。