COMMUNICATION SHIFT「今週は、ひとりごとです」

広告の未来を、広告の真ん中で活躍している方々と話したい。
そんな想いでスタートしたCOMMUNICATION SHIFTも、連載スタートから、次のさとなおさんで6人目になります。
澤本嘉光さん、永井一史さん、中村洋基さん、箭内道彦さん、丸原孝紀さんの5人の方々と話す中で何が見えてきたのか。
そしてこの連載は、これから「どこに」広告の未来を探しにいくのか。

広告の未来の話をしよう。
COMMUNICATION SHIFT

今回は、僕のひとりごとです。

「広告というものの社会的な可能性」と「広告をつくる人のマインドとしての可能性」のふたつがある。

この連載をはじめたとき、僕が思っていたのは、今の広告のカタチを前向きに批判するということ。
でも、続けていくうちに、そもそも、こうした連載をはじめたのも、自分が広告の可能性を信じているから、このコラムは広告へのそんな愛情がねじれて吹き出しちゃっているようなものなんだな、と気づきました。
そして、広告の可能性としては、「広告というものの社会的な可能性」と「広告をつくる人のマインドとしての可能性」のふたつがあるんだ、ということもだんだんと分かってきました。

まず、「広告というものの社会的な可能性」。それは、永井さんが示された3つの方向性が、とても分かりやすかったと思います。

  1. 企業といっしょに、これからの社会に求められる新しいサービス開発や、事業開発、新しい商品づくりを行う、という道。
  2. これからの社会にとって重要で価値のある、新しく芽吹いた何かを広げるお手伝いをする、という道。
  3. クリエイティブに関わる人、自らが主体者となって、社会的課題の解決を行うことを事業主体として実行する、という道。

僕自身は3つ目を目指しているんですが、永井さんはもともとデザインというものを1つ目の方向としてとらえていて、丸原さんはNPOのお手伝いを通して2つ目を尖ったカタチで成し遂げようとしている。
さらに、この3つの整理とは違うカタチで、澤本さんや中村さんの発言の中に出ていた、「広告で、文化をつくるんだ」という社会への関わり方もある。
どれが正しい、というわけではなく、俯瞰で見たとき、こうした方向性があるというのが見えてきました。

気質として、「共感の幅が広い」ということは言えるんじゃないか。

一方、俯瞰ではなく、心の部分、「広告をつくる人のマインドとしての可能性」に言及する方も多かったと思います。

「広告は、一言でいえば、クライアントの幸せを、自分の幸せにして、いっしょに成功して、報酬を分かち合うという仕事」という丸原さんの言葉や、「広告に関わる人は、異なる意見を橋渡ししていく役割を果たせる」という箭内さんの言葉。

広告をつくっている人はいい人だ、なんて言う気はないのですが、広告づくりにたずさわる人が持っている気質としては、「共感の幅が広い」ということは言えるんじゃないか。

同時に、中村さんの「つまらない既存のフォーマット的なものに対して、僕はずっと抗ってきた」というような、システムを打ち破りたいというマインド(アップルの名作CM「1984」に代表されるように)もある。

不思議ですよね。大量生産大量消費の世界で育ってきた広告なのに、広告をつくる人の心には、そうしたシステムさえ超えていくもっと広い共感や、既存のつまらないシステムを壊したいという衝動もある(少なくても僕にはある)。

矛盾、パラドックス。

でも、そうした「矛盾」を認識することがすべてのはじまりで、その「認識」こそが、世界のシフトを生み出していくもの、と丸原さんと話して、すこしだけ胸のつかえがとれたような気がします。

広告も、未来になるにしたがって、どんどん「市民化していく」

ここまで連載を振り返ってきましたが、ここからは少し、広告の未来というものを一人で想像してみようと思います。

たとえば、SFの中に出てくる未来の広告。

完全に個人にカスタマイズされ、その人がその瞬間欲しいものの情報が、朝目が覚めても、道を歩いていても、ホログラムで浮かび上がる…というようなシーンは、よくSFで出てくるものだけれども、確かに世の中そういう方向に向かっているかもしれない。
広告の未来って、やっぱりそういう風景なのか…。
でも、それが、幸せな風景か…と考えると、ちょっと違うようにも思える。

もしも、広告が個人にカスタマイズしていくことが、幸せと結びつくとしたら、個人の「嗜好」が反映される広告ではなく、個人の『意思』から生み出される広告。

たとえば、今のギャルの女の子たちが自分の考えたコーディネートをブログで発信して、それが広まっていく様子を見ていると、そこには「つくる人」と「つかう人」と「つたえる人」が渾然一体となった一つの素敵な世界がある。
すこし固い表現になってしまうけれど、広告も、未来になるにしたがって、どんどん「市民化していく」のかもしれない。そのとき、広告をつくるプロの僕らが果たせる役割はなんだろう…。

未来がはじまっているところへ。未来の広告を探しに。

今までのCOMMUNICATION SHIFTの前半が、現在の広告から線をのばしていった未来、だとしたら、まるで「SFの中の広告」をイメージするように、未来の社会をイメージして、そこから、その社会に必要とされる広告を考えていく。

COMMUNICATION SHIFTの後半は、そんな風に進めていきたいと思います。

でも、タイムマシンは、ない。
だから、未来の社会が既にあるところ、あるいは、未来の社会のかけらがあるところに行って考えたい。

それは、一つは「若い世代」。もう一つは「辺境」(空間的にも社会的にも)。

未来がはじまっているところへ。
未来の広告を探しに。

COMMUNICATION SHIFTの後半もよろしくおねがいします。

あ、あと、みんなで集まって熱く語りあうような、
COMMUNICATION SHIFT MEETING、いつか、やりたいと思っています。

来週は、さとなおさんです!

並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)
並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

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