「宣伝会議集客・販促メディアフォーラム2012」が8月28日、29日、東京国際フォーラムで開かれ、新カテゴリを切り拓いた商品の販促、ネットと連動して店舗へ集客した施策、チラシ活用、消費者の行動観察などをテーマに、多くのセミナーが行われました。その一部を9月から10月上旬にかけて、本欄で紹介します。
ジェイアイエヌ マーケティング室マネージャー 矢村功氏
新たな機能を持つメガネを再開発する
パソコン用メガネ「JINS PC」は2011年9月30日に発売し、これまでの累計販売本数は約50万本、メディアへの露出は広告効果で約5億円、さらにブルーライト研究会が発足するなど、多方面へ広がりを見せています。
ジェイアイエヌがメガネ業界に参入したのが11年前の2001年、本数シェアは業界ナンバーワンです。しかし一方で、業界全体の市場としては、この約10年で6千億から4千億円へと縮小しています。これは、それまで数万円で販売していたメガネを、われわれのような会社が1万円以下で販売を始めたことの影響が大きい。販売本数は変わりませんが、価格のみが低下しています。つまり、ジェイアイエヌがシェアを伸ばせば伸ばすほど、市場は縮小するという大きな課題がありました。
ではその中でどうすればいいのかと考えたときに、もう一度メガネを再発明しようという考えに至ったのです。メガネが発明されたのは約800年前のイタリアですが、それから現在まで、視力矯正という用途が中心で、機能面に大きな発展はありません。そこで打ち立てたキーワードが、“機能性アイウエア”です。メガネに視力矯正以外の機能を持たせることで付加価値をつけ、さらなる市場拡大を狙う試みです。
医学的、社会的な根拠を蓄える
機能性アイウエアの中心にあるのが、JINS PCです。パソコンから出るブルーライトが目を疲れさせるのですが、パソコンやスマートフォンの普及に伴い、LEDディスプレイから発されるブルーライトに接することが近年急速に増えています。JINS PCが目指したのは、このブルーライトを効率的にカットし、かつオフィスなどでも自然とかけることができるメガネです。
普及させるにあたり重要視したのは、「商品開発=情報開発」という発想です。新しい機能を持たせた商品であることから、きちんとしたエビデンス(証拠)を得られないとマーケットインできないと考えました。そのため、医師や大手企業の協力のもと、どれほどの効果があるか、何度か実験を重ねました。各実験の結果は、JINS PCを使用したことで眼への負担が減ることを証明するものでした。さらに、大手企業で福利厚生の一環として導入され、また眼科クリニックや学校にも導入されています。
パソコン用メガネと呼ばれる製品は、JINS PC以前にも他社で存在していました。しかしその原因であるブルーライトに着目し、製品を開発したり、その効果を証明、説明してこなかったのです。そこにしっかりとした医学的なエビデンスを蓄え、医学的データやさまざまな導入実績を加えたことで、JINS PCという製品が成立したのです。
実際に商品を普及させる段階では、IT企業に勤めている人、PCのスペックなどに対して情報感度の高い“ITコア”層からアプローチしました。その後、普段からPCに接することの多い“ITマス”の方々へ、そしてそれらに十分に普及しきった段階で、今年5月からテレビCMの放映を開始し“マス”へと、順を追って展開していいました。
段階を追って情報を広めていく範囲を徐々に広めていくプロモーションを行うことで、理解度を高めつつ、広く普及させることに成功したのです。
→次回はNo.15 チェルシージャパンです。
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