甘口カレーで汗をかく~前代未聞の特盛を注文
そんなお台場店で自分は食品担当を任された。最初はおそるおそる発注をしていたが、当時の店長に「そんなんじゃダメ、もっと攻めないと」とアドバイスをもらい、気持ち的にふっきれた。銀座にある沖縄物産館が好きだった自分は当時あんまりメジャーではなかった沖縄のお菓子たちを売りたかった。バイトの分際で生意気にも問屋さんにお願いし、沖縄に飛んでもらった。今やメジャーになったスッパイマン(干梅)やら、沖縄だけで売っている昔のパッケージのボンカレーやら、沖縄の食品ルートをこじあけていただいた。
ボンカレーは初回オーダーするとき、70個欲しかったところ、70カートン(1カートン30個入り)頼んでしまい、衝撃の2100個来てしまうというアクシデントに見舞われた。完全に自分が悪いのだが、大量のカレーをすごいスピードで納品してくださっている運送屋さんを見て「そんな勢いよく運んでくれなくて、いいってぇ~」と心の中でつぶやいた。やっちまったと思いつつ店長に報告すると爆笑され「2000個のカレーが並んでいる売場、面白いじゃないか」と盛り上がってくれた。そうなったら即行動。とてつもなくでかいひな壇を作り、2000個のボンカレーたちと格闘した。ナイアガラの滝にも似たボンカレーの滝は、多少のギミックを加え「なにをやっとんねん」とつっこみたくなる売場へ見事に仕上がった。おかげさまでカレーはバカ売れ。みるみるうちにナイアガラが華厳の滝になっていき、冷や汗もまた在庫量とともに減っていった。お店をやっていらっしゃる皆様、仕入れは慎重に!って、当たり前か。
スッパイマンも、在庫がいっぱいあったので店内の至るところに売場を作った。手の届かない位置にシートをぶら下げてジャンプしたらギリギリ取れるみたいなこともやってみた。シートに両面テープで商品がくっついているのだが、ジャンプしたらギリギリ取れて、取ったら戻せない、もう買うしかないという、まさに現代の押し売り。こんなくだらない仕掛けは大したことではないのだが、売る側も買う側も、ちょっと楽しかったりする。
大量のPOPは、文字の実演叩き売り
たまに、商談も行った。「これなんですけどね」「なんですかこれ」「マシュマロクリームです」「へえ、初めてみた」「売れますかね?これ全然売れてないんです」「えっ、意外ですねえ」「某スーパーチェーンで、8カートンしか売れてなくて困ってるんです」「どうやって食べるんですか」「パンとかにつけて、まあ食べてみてください」「これイケますよ、めちゃうまいじゃないですか」みたいなやりとりがあって導入。良い位置で展開して、なかなかのスピードで売り切れた。「すごい売れましたよ」「えっ本当ですか」「もっと仕入れますよ」「どのくらいします?」「日本の在庫、ぜんぶ」「・・・」そんなやりとりがあって、店長に許可を得て残りの在庫をすべて買い占めた。買い占めたのには理由があった。お客様は日本全国から東京の新たなる名所にいらっしゃっている。東京でしか買えない何かをお土産で買おうとしている。ここでしか買えないというキーワードがここのお客様には必ずハマる。絶対売れる。そんな根拠のない自信がドーパミンを刺激した。
「新たな発見!パンにマシュマロをつけて喰うとウマい」「うますぎたので、日本の在庫ぜんぶ買ってみました」「うますぎてマシュマロを体中にぬりたくなりました」みたいなPOPを大量に貼りまくり、ごったがえした店内でたたき売りのごとく売り込んでいった。これはまさに上野のアメ横や実演販売のマーフィー岡田のノリだった。その後売場からレジに入ったとき驚いた。レジに並ぶ人の数人にひとりは、この謎の食べ物を手にして並んでいたのだ。こんな予想以上の反応でやまほどあった日本の在庫は一瞬にしてなくなっていった。