2022年度グッドデザイン賞(主催:日本デザイン振興会)は11月1日、最高賞となるグッドデザイン大賞に地域の子どもたちを支える活動「まほうのだがしや チロル堂」(奈良県生駒市)を選出したと発表した。受賞者はアトリエe.f.t . 、合同会社オフィスキャンプ、一般社団法人無限。
「チロル堂」は2021年8月、奈良県生駒市にてオープン。18歳以下の子どもたちは店内通貨を使って駄菓子を買ったり、通常500円のカレーや軽食を食べたりすることができる。
子どもは入店時に一人1回100円で入口のガチャガチャを回すと通貨を獲得でき、カプセルには1枚100円の価値がある店内通貨「チロル札」が1~3枚入っている。これにより子どもたちの100円に「まほう」がかかり、100円以上の価値になるという仕組みだ。
運営は大人たちが店内で購入した代金の一部や、全国からのサブスクリプションモデルの寄附によって支えられており、これらに貢献する行動自体を「チロる」と呼んでいる。チロル堂の利用者数は1日あたり300人を超えることもあり、サブスク会員は200名に達した。2022年7月には金沢に2号店をオープンしている。
担い手は、大阪や奈良でアートスクールなどを営む「アトリエe.f.t .」代表/クリエイティブディレクターの吉田田(よしだだ)タカシ氏、奈良県吉野郡のクリエイティブファーム「オフィスキャンプ」代表の坂本大祐氏、生駒市内で放課後デイサービスなどを提供してきた一般社団法人「無限」代表理事の石田慶子氏。デザインや福祉を専門とする人たちが垣根を越えて生まれた取り組みでもある。
吉田田氏は受賞を受け、「今回の受賞は多くの名もなき人たちの協力のおかげ」とコメント。「多くの人が関わって、ガチャガチャの仕組みを通じて自然発生的に楽しみ方が広がっていった。グッドデザイン賞の大賞をいただいたが、自分としては“デザインされたもの”だとわからないような取り組みであることが重要だった」と話し、今後の全国展開の可能性にも言及した。
安次富隆審査委員長は「店内通貨の存在がユニークだった」と総括。「福祉の世界は支援する側・される側が二分されている。チロルという魔法によって、助ける・助けられる側の障壁をなくしたところにデザインの発明があった」と述べた。
齋藤精一審査副委員長も「従来のこども食堂の在り方、定義をリデザインした取り組み。最近だとWeb3やNFTなどテックの力を用いがちな社会課題の解決を、地元の愛と熱量で実行できると示してくれた。たくさんのデザインのヒントがここにあるように思います」と評した。
今年度のグッドデザイン賞のテーマは「交意と交響」。人々が持つ「創造する意志」を積極的に交わらせ、そうした人々のアクションが互いに関係し影響し合うことで生み出されるデザインに注目していくという方針を掲げていた。ファイナリスト5作品に対する審査員や受賞者・一般参加者による投票の結果、「チロル堂」は次点となった本田技研工業「UNI-ONE」の2倍以上となる票を集めた。
10月7日に発表された、大賞候補となったほかのファイナリストと得票数は以下のとおり(得票数順)。
・本田技研工業「ハンズフリーパーソナルモビリティUNI-ONE」/2895票
・日本放送協会「選挙啓発キャンペーン最高裁判所 裁判官の国民審査 特集サイト」/2763票
・日本マイクロソフト「Xbox Adaptive Controller / Xbox Series X|S」/1656票
・日立グローバルライフソリューションズ「日立 コードレス スティッククリーナー PV-BH900SK」/915票