ネット広告もテレビCM もAI を導入
―― 各社の広告クリエイティブにおけるAI活用の取り組みを教えてください。
毛利 インターネット広告に特化した代理事業を展開しているサイバーエージェントでは、効果の高いネット広告のクリエイティブを自動生成できるサービス「極(きわみ)予測シリーズ」を展開しています。配信前に静止画と動画の効果を予測できる「極予測AI」や、効果の出せる広告テキストを予測・自動生成できる「極予測TD」、そのLP 版の「極予測LP」も。たとえば「極予測AI」では、画像の選定や配置などの違いにより効果を制作過程からAIで測定し、さらに現在クライアントが配信している中で最も効果のあるクリエイティブと効果を競わせることができます。さまざまなパターンを配信前から検証できるので、ネット広告を担当しているクライアントの8割以上に、この極シリーズを使用してクリエイティブを提供しています。
児玉 電通グループでは「∞(むげん)AI」というサービスを提供しています。訴求軸をデータから見つけ、レイアウトやコピーを含むクリエイティブの生成、そこから改善点をサジェストでき、ワンストップのクリエイター支援ツールに近いものです。他にもチャットボットをつくれるツールなどマーケティングのプロセスの中で求められるものを社内で実験的に試してみて、特に使えるものをサービスとして提供していっている感じです。
2017 年にローンチしたAI コピーライター「AICO」の技術はさまざまなものに代替されてしまいましたが、その頃からのデータやノウハウも活きていて、それなりに長い開発の歴史を背負ったサービスです。
柴山 博報堂DYホールディングスは直下にグループ横断の研究開発組織「Creativetechnology lab beat」を組成してグループをあげて広告クリエイティブのAI 活用を推進しており、AIのソリューション群として「H-AI」シリーズを提供しています。広告文の自動生成や広告クリエイティブの効果予測AI機能だけでなく、クリエイティブ自体の制作支援や工程管理機能もアプリケーション内につくり込んでおり、数多くのクリエイティブを制作し管理まで一元的に行なえるプロダクトです。
また、テレビCMを中心としたブランデッドのクリエイティブでもAIを活用するツールを提供しています。たとえばテレビCMの制作において、アイトラッキングを用いて「仮編集などの段階で文字の色や位置を変えたら注視量が2割増えた」などと測定をしながら制作できる「H-AI EYE TRACKER」など。当社で開発したマーケティング専用AI と、GPT-4 などの汎用AI を使い分けながら開発、推進しています。
毛利 お2人はそうしたAI ツールを、クリエイターの方々にはどんな風にして使ってもらうように促していますか? 僕らは社内にある2つのクリエイティブ組織(ダイレクト/ブランド)のうち、ダイレクトのチームを「AIクリエイティブ」と呼んで、メンバー全員が業務で使う形にしています。導入期は反発もありましたが、戦略の一環として使ってもらうようにしました。
児玉 電通グループはマス広告などクリエイティブの幅が結構あるので、僕としては手作業が適しているタイプの案件は手作業でやればいいと思っています。ただ、良いAI のプロダクトができるとクライアントも社内も自然と使う人が増えるんですよね。これだけジェネレーティブAI に対する理解が深まってきているので、最近は使った方がいいという風が吹いている感じはあります。
柴山 博報堂DYグループのデジタルエージェンシーの会社であるアイレップでは、サイバーエージェントさんと同じように100%利用しています。「H-AI」に工程管理ツールも含まれているので、これを使わないと仕事ができない、という状態です。デジタル広告はかなりの数のクリエイティブが必要になるので、クリエイターごとの質のばらつきをAI が担保するという意味で、重要な位置付けとしています。
毛利 ブランデッドの方はどうですか?
柴山 CM などのブランデッドクリエイティブの制作では、クリエイターからまだまだ自分たちの腕の方が上だという声も聞こえます。それもよくわかるので、ブランデッドとパフォーマンスとは導入の仕方を分けながら進めていますね。
また、広告主からも「AI に対してどのような取り組みを行っているのか」といったAI を活用した工数削減や効果向上に対するご意見をいただくようにもなってきました。私たちのようなAI を推進する立場としては追い風かなと。児玉 あっと言う間に価値観が逆になるような気がしますよね。手づくりだからこそ価値があるものももちろんあって、それが市場からなくなることはないと思いつつ、工程の無駄をなくしていく時代はすぐそこに来ている気がします。
⸺社内のクリエイターの方々は、実際にどのようにAI を活用していますか。
児玉 人によってさまざまですが、AI にコピーを書かせるというより、何となく関係しそうだけど遠い言葉や同義語、類義語を生成するbot を自分でつくって、それを使ってコピーの幅を広げたりしていますね。他にはユーザー像を可視化したり課題を深掘りしたりするときの壁打ち相手としてChatGPT を使っていたり。画像系だと、社内でのプロトタイピングの段階では画像生成AI を使うのは当たり前になりつつあります。
柴山 クリエイターの仕事内容に応じてチョイスできるような形にしています。ブランデッドでは以前は「こうしたら良くなる」が職人の勘に委ねられていましたが、今は自分自身とAI を戦わせてみて「この考え方で合っているんだっけ?」と壁打ち相手として検証的に使うことが多いですね。AIのアシストが絶対というわけではありませんが、人に言われるよりも最近は信じてくれることが多くて。
毛利 サイバーエージェントはほとんどのクリエイティブを内製して相当数のバナーをつくっているので、特に地方拠点では工程管理が徹底されています。東京ではジェネレーティブAI を使うことで新しいデザイン、意外性のあるものが生まれやすくなっている印象です。
社内の変化でいうと、社内の変化でいうと、以前は商品カットが必要なときは物撮りをしていましたが、今は「撮影しないで生成しちゃえばいいじゃん」となってきて、スタジオはあまり使われなくなってきました。
あとは下着メーカーをクライアントに持つとあるクリエイターは、その下着の画像生成がすごくうまくて。プロダクト自体もAI でつくれることで、できることが広がります。
児玉 なるほど。最近、商品やロゴなどそのブランドらしさを一貫させる技術が深化してきているので、広告制作のフローも変わり、商品ができあがる前からAIで画像を生成して始められる、ということもあり得ますよね。
(……この続きは月刊『ブレーン』8月号でお読みいただけます)。
このあとのトピック
- ・AIの業務での使い方
- ・AIが一気に浸透し始めている背景
- ・人間が負うべき責任
- ・不合理な個性が人間の価値になる
- ・面白い人はAI の使い方も面白い
- ・「オリジナル」との共存の仕組みづくりへ
- ・今後のAIとクリエイターの関係性は?
児玉拓也
電通グループ AI MIRAI 統括/ AI ビジネスプランナー。2017 年より、電通グループにおけるAI 活用の横断プロジェクト「AI MIRAI」リーダー。第3 次AI ブーム初期より一貫して、マーケティングやDXにおけるAI 活用についてリサーチしつつ、電通グループ内での活用推進、プロダクト開発に携わっている。現在は経営企画部門に所属し、電通グループ全体のテクノロジー戦略に携わる傍ら、グループ各社から集まったGenerative AI横断タスクフォースを組成し、リサーチとプロダクト開発・情報発信を続けている。
柴山 大
アイレップ 取締役CTO/博報堂テクノロジーズ 執行役員。通信企業やWebメディア企業にて商品企画開発を経験したのち、2017 年にnegociaを設立、代表取締役(現任)。2019 年、negocia のアイレップへのM&Aに伴い、アイレップのテクノロジー領域全般を管掌。2022 年より現職。
毛利真崇
サイバーエージェント AI 事業本部 AI クリエイティブDiv. 統括。2005 年サイバーエージェント新卒入社。 広告代理事業の営業に従事した後、セントラルアカウントデザイン室を立ち上げ、広告プロダクトのアルゴリズム解析および運用設計、自動化ツールのプロダクトマネージャーを担当。2017 年にAI クリエイティブDiv. を立ち上げ、AI や3DCGを活用した広告クリエイティブの効果予測や自動生成の研究開発を行っている。
月刊『ブレーン』2023年8月号
【特集】
「仕事を奪う」は本当か
生成AI の隆盛とクリエイターの未来
▼CASE STUDY
・大日本除虫菊/キンチョール「ヤング向け映像」
・KDDI /αU「もう、ひとつの世界。」
・近畿大学「上品な大学、ランク外。」
・櫻坂46『 Start over! 』
▼調査
クリエイターのAI 活用実態調査
262人の答え
▼座談会
広告会社が挑む
クリエイティブ力を拡張するAI の使い方
児玉拓也(電通グループ)
柴山 大(アイレップ・博報堂テクノロジーズ)
毛利真崇(サイバーエージェント)
▼OPINION
・渋谷慶一郎/音楽
・一ノ瀬京介/映画
・橋本祐樹・リョウマツモト/ファッション
・手塚 眞・栗原 聡/漫画
▼REPORT
グローバル事例に見る
未来の可能性
志村和広(電通)