その時代に生きる人々の空気感を捉え、心を掴むコピー。「日本の歴史的広告クリエイティブ100選」「日本の企画者たち」の著者、岡田芳郎氏が歴史に残る「広告のことば」を紹介する。
「不幸話」は興味を引くための工夫
■平賀源内(1728~79年)「歯磨粉 漱石香」(1769年発売)
「きくかきかぬかの程、私は夢中にて一向存じ申さず」
こんな売り言葉で今どきのお客さんはモノを買ってくれるでしょうか。平賀源内は日本のコピーライター第1号といわれます。特に有名なのが、えびすや兵助のために書いた「歯磨粉 漱石香」の引札(チラシ)です。
導入部分はこう始まります。
「はこいり はみがき 漱石香 歯を白くし 口中あしき匂いを去る 二十袋分入 一箱代 七十二文 つめかえ 四十八文 トウザイトウザイ、そもそも私住所の儀、八方は八つ棟作り四方に四面の蔵を建てんと存じ立てたる甲斐もなくだんだんの不仕合わせ、商いの損あいつづき渋うちわにあおぎたてられ、あとへもさきへも参りがたし。」
人の興味を引きやすい損や不幸話を織り込み、一気に読者を話に引き込みます。
さらに、戯作独特の虚実をないまぜにした文で話を進行させます。
「商いがうまくいかなくて困っていたところ、ある人が元手のいらない歯磨きの商売を教えてくれた。防州砂に匂いを入れ名前を変えただけの価値のない品だが、今回は二十袋分を一箱に入れた。使い勝手がよいので、たくさん売って利益をあげるよう安く売る」。
「元手のいらない商売」「砂に匂いを入れただけの価値のない品」などと内幕をバラしているところが秀逸です。歯磨き粉が流行り始めた時代で、どの歯磨き粉も同じようなものだったのでしょう。「二十袋分を一箱に入れて安く売る」というセールスポイントはきちんと述べています。