今年3月、ホワイトデーを間近に控えた頃に、ユニークなチョコレートが発売された。
その名も「Toei Détail」(トエイ ディテール)。「ショコラティエ パレ ド オール」の三枝俊介氏の監修によって完成したチョコレートの味は、苺味のレッド、ミルキーな味わいのホワイト、バニラの香りとビター感の残るチョコ、そしてトロピカルな味わいのイエローの4種類。それがオリジナルパッケージに納められおり、価格は2000円(税込)。一見、普通のチョコレートのように見えるが、それを製作、発売したのは東京都交通局である。
実はこのチョコレート、都営浅草線 馬込駅ホームの階段、都営三田線 神保町駅ホームの壁など、都営地下鉄の駅ごとに異なる壁や天井、床のディテールをモチーフに作られている。都営交通の様々な取組みを発信するプロジェクト「PROJECT TOEI」において実現したもの。同プロジェクトでは、これまでにマグナム・フォトの写真家マーク・パワーが都営交通のバックヤードを撮り下ろした写真集『MAINTENANCE』を発売するなど、ユニークな施策に取り組み、話題化を図ってきた。
「昨年、写真集を作り、次は駅だなと。東京の駅は、NYやパリと比べるまでもなく、どこも清潔で整然としている。でも住んでいる人はそれを当たり前だと思っている。だから広告で東京の駅きれいですよね、と言ってみてもしょうがない。とはいえ、日々暮らしているわけで、愛着とまでいかなくてもなんとか少しでも目を向けてもらうことはできないものか?」と、電通 コピーライター 髙木基氏は企画の発端を話す。
その一方で、髙木氏の頭をよぎったのは「東京にはよい土産がなかなかない」ということ。
「東京にしかないものはと考えた時、 地下鉄というのは都市にしかない存在。その駅の壁、床、そして天井のクリーンさは東京固有のものだなと。しかもそこには、一番古い都営浅草線だと約60年もの年月が宿っていて。表面的には残っていなくても、そのクリーンに保つ運用の素晴らしさ自体は、都電時代から考えると107年もの歴史の現れでもある。
と、いう一方で。瓦礫みたいなチョコレートケーキとか最近スイーツはいろいろな形状があるなと。たしかに、長い人生の中で普段なら通り過ぎてしまう、壁や床のディテールがふと見えてきてしまう、そんなおかしな瞬間がないこともない。それが美味しそうに見えてきてしまうことだってないわけじゃない」。
そんな思いを巡らせた末、ショコラティエ・三枝俊介氏に「都営交通の壁をチョコレートにできないか」と相談したという。
しかし、実際にどこで売るのか?誰が買うのか?どの駅の壁がいいのか?本当に美味しそうなものになるのか?デザインとして定着させられるのか?広告にした時、何をやっているのかわけがわからないのでは?果たして売れるのか?という課題が山積していた。その一つひとつにぶつかりながら、具体的な形へと落とし込んでいった。
「三枝さんに『面白いだけで美味しくないと、地下鉄とチョコレートとがつながっていかない』とお教えいただいて。壁を実際に食べたことのある人はいないとは思うのですが、たしかに、かじるとこんな感じかなという風になっていて、本当に美味しいチョコレートができました」(髙木氏)。
この難しい課題を受けて立った三枝さんは、次のようにコメントしている。「『チョコレートを使って地下鉄を表現する』という、全く噛み合わない予想外のお話をいただいた時、ものすごく面白いものができるのではないか、と直感しました。別に壁を食べているわけではないけれど、チョコレートの中にライスパフやクッキーなどの異なる食感を加えることによっていろいろな食感を楽しむことができる、視覚でも食感でも楽しめるチョコレートが完成しました」。
チョコレートは、3月11〜17日の期間に都営新宿線・新宿三丁目駅、都営大江戸線・新宿西口駅、都庁前駅にて合計1500個限定で販売された。発売後、SNSなどで話題が広がり、1日の販売数量は毎日10分程度で完売したという。
今回のようなオリジナル商品の開発のみならず、都営交通のバックヤードを伝えるコラム連載、都営を舞台にしたイベントの企画などを展開する「PROJECT TOEI」。こうした試みは、今後も継続していく考えだ。
スタッフリスト
- 企画制作
- 電通+ファイズマンクリエイティブ+J.C.スパーク
- CD+PR
- 菊地英雄
- AD+D+撮影(壁)
- 塚本哲也
- C
- 髙木基
- D
- 大友淳
- PR
- 勝田真人、上藤実紀
- 撮影(商品)
- 上原勇
- AE
- 佐藤大輔、福井翠、川口修
- 製版+印刷
- 日庄
- 監修
- 三枝俊介