このコラムでは、競合を勝ち抜くための「もう片方のスキル」と題し、コンペで安定した結果を残すためのスキルをシェアします。第1回では、真面目なビジネスパーソンほど、コンペの勝敗を左右する「もう片方のスキル」の存在に気づかないという話をしました。第2回の今回は、その「もう片方のスキル」の正体について詳しく解説します。
多くの人が気づいていない「もう片方のスキル」とは?
「素晴らしい提案でしたが、今回は他社さんに決めました」。コンペ敗退の連絡とともに、何度このセリフを聞いたことでしょう。提案を褒められたのに不採用。渾身の企画書だった。満足のいく提案ができた。確かな手応えがあった。でも勝てなかった。自分には何が足りなかったのか? もはや自分にできることはないのではないか? そう思い悩んでいるビジネスパーソンも多いでしょう。かく言う私も、そんな悩みを抱えた一人でした。
あなたの周りにもいませんか? 戦略やアイデアはキレキレなのに、どうも本番になると上手く提案が通らない人。「あの人は職人気質だからね」なんて言葉で慰められているかもしれません。逆に、戦略やアイデア自体はそこまで飛び抜けていないのに、提案がバンバン通る人もいます。「営業力があるね」「百戦錬磨だね」「本番に強いね」なんて言われているかもしれません。では、その差はどこからくるのでしょうか?
実は、コンペに勝てないと悩む人が、気づいていないことがあります。それは、コンペに勝つためのスキルには、2種類あるということ。ひとつは「提案の中身づくり」のためのスキル。これは多くのビジネスパーソンが、こぞって習得に心血を注いでいます。でも「もう片方のスキル」については、その存在すら認識できていません。なぜ認識できていないのかというと、単純に名前がついていないからだというのが、ひとつの理由だと思うのです。
フットサルの「キラースキル」と「アシストスキル」
本コラムの着想のきっかけとなった話をさせてください。私はフットサル(5人でやるサッカーのようなスポーツ)が趣味で、毎週末プレイしています。平日の夜寝る前には、YouTubeのフットサルスキル動画を観るのが日課です。様々な種類の動画が公開されているのですが、私がよく閲覧しているのは、元プロフットサル選手・石関聖氏の「石関聖のサッカーに生きるフットサル思考」です。
その動画の中で石関氏は、一対一のドリブルで相手に勝つためのスキルには、大きく2種類あると語っています。「キラースキル」と「アシストスキル」です。
●相手を仕留める「キラースキル」
キラースキルとは、一対一のドリブルで相手を抜き去る技術です。一瞬で相手をかわすフェイント、タイミングをずらした抜き方、緩急を使ったドリブル技術など、直接的に相手を「仕留める」際に使われるスキルを意味します。
●キラースキルを活かす「アシストスキル」
一方で、キラースキルを引き立てるのが「アシストスキル」です。キラースキルの効果を最大化するための技術と言っても良いでしょう。相手を観察しながら重心を揺さぶるテクニック、失敗しそうなドリブルをやめる(キャンセルする)技術、相手を食いつかせる仕掛けなど。
アシストスキル単体で相手を抜けるわけではありませんが、身につけたキラースキルが効果を発揮する「環境を整える」スキルであり、これがあるのとないのとでは、ドリブル成功率が大きく変わります。
私はこの「キラースキル」「アシストスキル」という概念を知って、目から鱗が落ちました。なぜなら、キラースキルばかりを躍起になって練習していた自分に気づかされたからです。確かにキラースキルを磨けば、時々ドリブル突破は成功するかもしれません。ただ、刻一刻と状況が変化し、相手も死に物狂いで向かってくる本番の試合では、ドリブル成功率は思ったほど上がりません。せっかく練習したキラースキルも、宝の持ち腐れです。
一方で、いつも安定してドリブルで相手を抜ける上手な選手は、そのキラースキルの「使い所」や「活かし方」を知っています。つまり、「アシストスキル」の存在を認識し、その引き出しを増やす鍛錬をしているのです。キラースキルをいくら持っていても、それを活かすアシストスキルがなければ、安定した結果を残すことはできません。アシストスキルがあることで、キラースキルが効果を発揮する環境が整うのです。
そして、全く同じ考え方が、コンペにも適用できます。
負ける理由を回避するためのスキル
コンペで勝つためのスキルを2つに分類。それぞれに「キラースキル」と「アシストスキル」と名前をつけることで、スキルセットとしての概念が明確になります。
●コンペの「キラースキル」
コンペのお題に直接答える(クライアントのビジネス課題を解決する)ためのスキルセット。直接的に企画書やプレゼンの「中身づくり」に活用される。具体的には、課題設定、マーケティング、コミュニケーション戦略、ロジカルシンキング、企画・アイデア発想、プランニングメソッド、プレゼンテクニックなど。主に思考系のビジネススキルが該当する。体系立てられた理論があり、書籍や講座多数。個々人の専門能力(内的要因)を高めるためのものなので、習得にはそれなりの時間がかかる。
●コンペの「アシストスキル」
勝つ環境を整え、キラースキルの効果を最大化するためのスキルセット。オリエン前から提案後まで、つまりコンペの一連の業務の中で、落とし穴(負ける理由)を回避するために活用される。現場で培われた実践的な知識・経験から導かれ、企画書やプレゼンの「外側」や「仕事の進め方」に反映される。主に対人系、組織系、業務系のビジネススキルが該当する。個々人の専門能力を高めるというよりは、安定して勝つ環境(外的要因)を整えるのが目的であり、習得にはそれほど時間がかからない。
あなたが勝てないのは、勝つ環境を整えていないから
多くの人は、コンペの敗因を「提案の中身でライバル社との差がついたから」と結論づけようとします。私が講師を務める、宣伝会議「競合コンペ攻略講座」の中での話ですが、何も事前情報を与えずに、受講生にコンペの敗因分析をやってもらうと、7〜8割は「提案の中身の理由」を挙げます。「ターゲット設定のミス」「戦略の方向性違い」「企画がつまらなかった」「プレゼンに一貫性がなかった」などなど。言い換えれば「もっと個々人の能力が高ければ勝てた」と結論づけているのです。真面目でストイックな分析で好感が持てるという見方もありますが、もう少し「自分の能力以外のせい」にしてもよいのになぁと、私なんかは思ってしまいます。
実はコンペの敗因には「提案の外側の理由」もたくさん存在します。第1回でお話しした「会社そのものへの不安が払拭できなかった」などはその最たるものですが、提案の外側どころか、それ以前の話です。ライバル社との「中身勝負」に持ち込めているならまだマシで、多くの場合は、そこに持ち込むまでもなく負けています。提案の中身をいくら作り込もうが、そもそも勝つ環境が整っていなければ、土俵に乗った瞬間に負けは決まってしまいます。
まずは「2つのスキル」があることを認識しよう
「キラースキル」「アシストスキル」と名前を付け、スキルの概念や目的が明確になると、これまでと違ったものの見方ができるようになります。例えば、コンペの敗因が「提案の中身」と「提案の外側」のどちらにあったのかという視点で分析すれば、自身に足りないのが「キラースキル」と「アシストスキル」のどちらなのかがわかります。また、読書やセミナー、あるいは会社の研修で、自分が習得しようとしているのは、一体どちらのスキルなのかを自覚することもできます。成功事例で語られたキラースキルに盲目的に飛びついていないか、一歩立ち止まって確認することもできるでしょう。アシストスキルを活用して「勝つ環境を整える」作業を、誰かに任せっきりにしていやしないか、振り返ってみることもできるはずです。
そして「コンペに勝てない」と悩むあなたが、勝率を上げるために今すぐ身につけるべきは、勝つ環境を整える「アシストスキル」であるというのが、私の主張です。
アシストスキルの習得は難しくない
コンペは、今や広く一般的に浸透している商習慣です。当然、受注を勝ち取るために、日々研鑽を積んでいるビジネスパーソンも多いでしょう。しかしながら、その多くが「キラースキル」の習得に、たくさんの時間を割いています。「●●は課題設定が9割」「勝てる企画のつくり方」「最新プランニングメソッド」「新市場を創造する●●モデル」「最強のアイデア発想術」「魅せるプレゼンテクニック」などなど。既存のビジネス書や講座のタイトルを見れば、その偏りは明らかです。勝つための準備としては全く間違っていませんが、習得にはそれなりの時間がかかります。
圧倒的に「アシストスキル」が足りない。その存在にすら気づいていない。それが、私が投げかけたい問題意識です。知識や経験が、特定の個人内に偏在していると言っても良いでしょう。キラースキル同様、コンペの勝敗を左右するスキルであるにもかかわらず、それを体系的に網羅した書籍は見当たりません。まして、会社は教えてもくれません。
安定して勝てる体質に変えていく
なぜ、会社は何も教えてくれないままに、いきなり我々をプロの試合に放り込むのでしょうか。なぜ、知っていれば未然にミスを防げる知識をあらかじめ装備することもなく、試合巧者に挑んでいくのでしょうか。なぜ、手痛い敗北と引き換えにしか、知見を蓄積できないのでしょうか。なぜ、隣の部署と同じミスを犯し、失注を繰り返すのでしょうか。受注を勝ち取れるようになるまでに、どれだけの損失を支払うのでしょうか。そんな悪しき慣習は、あなたの手で断ち切らねばなりません。
競合で安定した結果を残すためには、コンペのお題に直接答えるための「キラースキル」もさることながら、勝つ環境を整えるための「アシストスキル」も重要であるというのが、本コラムで私が伝えたいことです。
キラースキルは日々変化していくので、アップデートし続ける必要がありますが、アシストスキルは一度身につけてしまえば、使い続けられます。アシストスキルの存在を認識し、身につけることで、安定して勝てる体質へと変化できるのです。そうやって、力強くコンペを勝ち抜き、接戦をモノにできるビジネスパーソンへと進化していきましょう。
いかがでしたでしょうか?
第3回(6月21日掲載)からはいよいよ、実践的なアシストスキルの数々の中から、とりわけ重要なものをお伝えします。営業職として、常に勝てるチーム・仲間をつくりたい。勝負強いスタッフになりたい。マネジメントとして、常に勝つマインドを社内に根付かせたい。そんな方々におすすめです。