ターゲティングはWhoからWhere、そしてHowへ
まずは1つ目のキーワード「HOW:クリエイティブでターゲティングする」について解説。現在、デジタル広告が直面している大きな問題にCookie規制が挙げられる。Cookieとはユーザーのサイト行動を記録して広告の効果計測やターゲティングに活用するもので、デジタル広告には必要不可欠だ。しかし、プライバシー保護を理由にCookieのトラッキングの利用規制が進行しており、ユーザーのターゲティングが困難になりつつある。
「当社で広告配信実績の平均値を出した結果を見ると、Cookieを利用したリターゲティング広告においては、トラッキングができないことによる配信ボリュームの縮小や、効果計測ができないことによるCVの減少、それに伴うCPAの上昇が見受けられました。今後はCV計測ができないことによる機械学習の精度の低下で、ますます最適化配信のパフォーマンスが低くなる可能性があります。それに伴いマーケティングの投資判断を見誤るリスクも予想されています」(田中氏)
従来は、CookieからWebサイト内の行動を追跡できたため、その行動パターンをもとにターゲティングができた。今後は広告掲載する先のコンテンツ面を指定する配信も活用が進むなど、情報の届け方は「Who」から「Where」の観点が重要になってくる。さらに、「Where」の中でも、どのようなコンテンツでどのようなメッセージを届け、どのような態度変容を促していくかというクリエイティブの重要性も高まる。
「テクノロジーで行うターゲティングが難しくなった今、『Who』から『Where』へのシフト、そしてクリエイティブでターゲティングする『How』の考え方が主流になると考えています」(吉田氏)
「HOW」のクリエイティブでターゲティングを実践した事例として、金融系企業が実施した若年層に向けた施策を紹介。Z世代から支持されている女性3人組クリエイターを起用し、彼女たちらしいポップでキュートな世界観の中で、サービスの機能的な価値を織り交ぜたクリエイティブを制作、YouTubeや各SNSで展開した。
「今回のクリエイターはYouTubeなどで大きなパワーを持っていましたが、そのリーチに加え、フォロワー1人1人との距離感が近いかや、ファンの熱量が高いかどうかといったエンゲージメントの観点も踏まえてアサインすることが重要です 。さらにこの時は、クリエイティブでターゲットを絞り込むために、同時に様々なジャンルのクリエイターも起用しメッセージを発信してもらいました。広くリーチをとる大型のクリエイターと、小さな集団をとらえていくマイクロインフルエンサーをバランスよく起用することで、より効率的に熱量高く、多くのフォロワー(トライブ)の心を動かすことができた事例になりました」(吉田氏)。
トレンドを最前線でとらえる“Co-クリエイション”
続いて、2つ目のキーワード「SPEED:トレンド最前線でとらえる」について解説。昨今、SNSやニュースアプリでは、アルゴリズムの学習も相まって、自分の好きな情報ばかりを選ぶ環境が一般化。このような異なる意見や話題が入りにくい“フィルターバブル”の状態は、便利な一方で情報の偏りが顕著になるという問題点もある。同時に、コンテンツへの「飽き」や、トレンドの流行り廃りのスピードも加速しているという。
「このような移り変わりが早い中では、企画やプランニングも次のステップへ進む必要があると考えています。今までのプランナーが単独で数時間かけてクリエイションするやり方から、現役で活躍しているYouTuberやTikTokの動画クリエイターと一緒に新たなクリエイティブを作り上げる“Co-クリエイション”が今後トレンドの一つになると考えています」(吉田氏)
Co-クリエイションの一つの形がワークショップだ。クライアントとプラットフォーマー、クリエイターがともに、アイデアを発散しながらスピード感をもってクリエイティブを作りあげるというもの。業種問わずさまざまな広告主からのプロモーション実績のあるクリエイターや、同世代から絶大な人気を獲得する女性クリエイターなど、プロモーションの目的に沿った幅広い方々とタッグを組んで「共創」することが特徴のひとつであるという。
「現役で活躍している、つまり時代の最前線で一定の支持を得ているクリエイターの知見や発想、個性も活かしながら、新たな刺激やハッとするような体験を与えられるクリエイティブを一緒になって生み出していく動きが、今後加速していくのではと考えています」(吉田氏)。
目だけではなく、指もつい止めたくなるクリエイティブを
続いて、3つ目のキーワード「CATCH:アイキャッチからフィンガーキャッチへ」について解説。デジタルのクリエイティブは、YouTubeだとスキップされる前の5秒、SNSだとスワイプされる前の1秒で、見るか否か判断されるシビアな世界だ。そこでは目を留めたくなる“アイキャッチ”から、いかに生活者の指を止めて続きが見たくなるかの“フィンガーキャッチ”の視点がクリエイティブに必要になっているという。
これを実現できた事例として、20~30代男女をメインターゲットにした某アパレルブランドの事例を紹介。YouTubeのクリエイティブでは、冒頭5秒でスキップされないように、暗い照明から明るい照明に変化し、BGM含め“続きが気になるような”演出を入れたという。
「そのほかにも検証するなかで、動画を完全視聴させるためには16:9の全画面で画面いっぱいに制作することがポイントということや、一方で動画の上下にセールの案内などオファーの強いバナーをつけることで、よりクリックを誘引できるということが成果として見えてきました。闇雲にクリエイティブのタイプ数を作るのではなく、狙いと仮説を持って作り分けることが重要であると考えています。TikTokのクリエイティブでは、ルーレット形式でキャラクターの着せ替えができるようなゲーム性や訴求内容とは関係のない遊びの要素も盛り込みました。そうすることで、コメント欄でユーザーが盛り上がりシェアされ拡がっていくという、TikTokならではの成功の要因となりました」(吉田氏)。
テレビデバイスで意識すべき「共視聴」の視点
最後に、「DEVICE:デジタル起点で進化するテレビ」のキーワードについて説明。インターネットに接続されたテレビ端末であるコネクテッドTVの普及に伴い、「デジタルの延長線上にテレビがある」という考え方でメディアとクリエイティブをプランニングする必要性にも迫られている。
そこで念頭に置いておくべきことのひとつが「共視聴」だ。YouTubeのコネクテッドTVでも2022年4月から共視聴という指標が登場。Googleで一部のユーザーに視聴環境をヒアリングして分析したものを元に算出されている。この指標では1インプレッションの先に何人が視聴しているかを表現しているため、テレビCMと横並びにリーチを評価できるようになっているのだ。
共視聴の考え方を取り入れた事例として、格安SIMを展開している通信事業者のクリエイティブを紹介。動画部分はメインターゲットである10代~20代の若年層が興味を引くような訴求内容・世界観で制作。一方のL字バナー部分は、サブターゲットの親世代が興味を引くようなキャンペーン情報を中心に設計した。
田中氏は、テレビCMとデジタルのCMが混在する中で、今後テレビデバイスはデジタルの考え方を起点にさらに進化していくとし、次の3つのポイントを提示する。
「1つ目はデバイスとしての役割の変化です。テレビ=認知メディアという役割から、今後は検索や獲得につなげるなど新しい役割を持ったデバイスへと変化していくことが考えられます。2つ目はターゲット補完です。共視聴を含め、テレビCMでは補完できない層をコネクテッドTVで補完する新しいコミュニケーションの形が今後加速すると予想されます。そして3つ目はスキッパブル前提のCMの増加です。通常のテレビCMに近い環境である、スキップしない15秒動画広告の配信はもちろん、YouTubeならではの5秒時点でスキップできるデジタルのCMが流れる機会も増えています。テレビとデジタルの境目が今後さらに曖昧になる中で、デジタルにおいてもブランドならではの価値が感じられるコミュニケーションや、体験づくりの重要度が今後増していくのではないでしょうか」(田中氏)。
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