どこまで共有?どうやって連携?外部パートナーとのKPI共有

人材・ノウハウ不足などを背景に、専門スキルや経験を持つ外部にマーケティング業務を委託する事例も増えている。適切に連携し、目標達成に寄与するためにはどのようなポイントに着目するべきなのか。エン・ジャパンでマーケティングの責任者を務め、同社のマーケター採用や組織マネジメントも担う田中奏真氏が解説する。

(本記事は月刊『宣伝会議』12月号巻頭特集に掲載されているものです)

田中奏真氏
エン・ジャパン
執行役員 デジタルマーケティング部長

1982年生まれ。2006年にエン・ジャパン新卒入社。法人営業としてIT業界のエンジニア採用を支援。2009年にマーケティング部門へ異動。若手ハイキャリアのスカウト転職「AMBI」、総合転職サイト「エン転職」、社員・バイト求人サイト「エンゲージ」などのマーケティングを担当。2022年に執行役員に就任。

外部企業に対してKPIをどこまでオープンにすべき?

2021年に「TikTok売れ」がトレンドとなった背景には、生活者の購買理由の変化があります。この市場の変動に対応すべく、マーケターは新しい時代のマーケティング戦略を試行錯誤しており、外部企業が保有する資源の価値が再認識されています。

このときにマーケターが直面する疑問が、「外部企業に対してKPIをどこまでオープンにすべきか」です。非開示契約(NDA)が結ばれていれば、理論上は「全てのKPIを共有する」が最適解。しかし、複数のマーケティング支援会社のスタッフにヒアリングをしてみると、事業会社からKPIに関する情報を受け取っていないという事例を教えてもらいました。

その背後には2つの理由が浮かび上がります。ひとつは、情報を公開するリスクが、共有することのメリットを上回っているという判断があるということ。もうひとつは、KPIの共有がもたらす実際の価値が未知数であることです。

私はエン・ジャパンに在職中で、採用に関する事業の成長を支える立場にいます。14年間にわたって求人サイトのマーケティングをしており、KPIマネジメントを実践してきましたが、苦い思い出があります。それは、外部企業にKPIや関連情報をうまく伝えることができず、事業を停滞させたこと。振り返ると3つの失敗がありました。

最初の失敗は、外部企業にKPI関連情報を伝えなかったこと。自社の情報が競合他社に利用されるリスクを考慮して、それを避けるために非開示にしました。この結果、外部企業は十分な提案ができなくなった。次に、誤ったKPIの作成方法で共有してしまい、プロジェクトの成果を得られなかったこと。さらに、複数の数値目標を設定してしまい、施策の優先順位をつけられない状態に陥ったこと。KPIマネジメントの失敗は、事業成長を停滞させる要因となりました。

その後、考え方を変えて外部企業にKPIを適切に共有できるようになってからは、広告宣伝費が10倍に増加(2009年度:20億円→2023年度:200億円)しても、費用対効果が高い状態を維持できており、事業が成長しています。

これは私のマーケティングセンスによるものではなく、外部企業が持っている実力が最大限に発揮されたことによるものです。そこで、本記事では私が実務を通じて体験した、KPIを外部企業に共有することの多面的価値についてご紹介します。

透明性の高い情報共有でマーケティングチームを強くする

外部企業にKPIを共有する最大のメリットは、自社の企業文化や既存のプロセスに囚われない客観的な意見や提案をもらえることです。

外部企業は自社とは異なる業界でマーケティングを実行しているため、様々な専門知識を持っています。企業は社内の意見だけでは特定の方向性や固定観念に影響されることがあるでしょう。日常業務に追われて見落としてしまうポイントも多い。私は当社に18年間在籍して人材業界の知識は持っていますが、転職経験がなく他業界を経験したことがないので、意識して外部からインプットしないと視野が狭くなる。その状態でマーケティングの意思決定をするのはリスクが大きい。この課題の解決に適しているのが、外部企業とのディスカッションです。自社のKPIを共有して、論点を課題設定にすれば、他業界のベストプラクティスを得やすくなる。結果的に私は事業を成長させるアイデアと運よく出会うことができました。外部企業が保有する資源は価値が高く、生活者の購買理由が変化を続ける世界において、価値は上がり続けるでしょう。

外部企業との議論が増えると、双方で合意形成をする機会が自然と増加します。外部環境の変化に迅速に対応するための情報も手に入りやすくなる。単純接触効果の威力は非常に高く、コミュニケーションは円滑になっていく。心理的安全性は高くなり、定期的なレポートや会議において、プロジェクトの問題を発言しやすくなる。これにより、プロジェクトが誤った方向に進む前に調整でき、無駄な予算の浪費を防ぎ、収益性の高い施策に集中できます。

また、データ共有の自動化や共通ダッシュボードを開発することで、持続可能なプロジェクト運営をしやすくなるでしょう。これらのプロセスの利点は、透明性の高い情報共有ができること。両社の信頼関係が深まっていくので、誤解や不確実性を減少させ、チームが強くなります。

事業にブレークスルーを起こすKPI共有の7つのステップ

次に、外部企業へのKPI共有の際のポイントを、シンプルに7つのステップにまとめました。

…この続きは11月1日発売の月刊『宣伝会議』12月号で読むことができます。

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『宣伝会議』12月号(11月1日発売)

書影 宣伝会議12月ごう
  • 特集
  • 業種・施策別にトップマーケターが解説!
  • マーケティング活動
  • KPIの設計と運用
  • 〇AI全盛の今、マーケターに求められる
  • ビジネスを成長させる「一段上」の視点
  • 今西陽介氏
  • 〇認知から購入まで距離がある商材は
  • どのようにKPIを管理すべき?
  • 川島佑太氏
  • 〇縁をひとつも無駄にしない!
  • KPIは顧客との「対話」のための道標
  • 松下沙彩氏
  • 〇マス媒体×デジタル媒体における
  • 事業起点のリソース配分の考え方
  • 南坊泰司氏
  • 〇Brand・Trust・Demandの3つの観点で
  • フルファネルのアプローチ状況を補足
  • 渡邊隆尚氏
  • 〇「なんとなくの運用」を脱する!
  • サービス獲得につなげるSNS活用
  • 西川貴規氏
  • 〇どこまで共有、どうやって連携?
  • 外部パートナーとのKPI共有
  • 田中奏真氏
  • 〇適切な戦略・戦術でKPIは決まる!
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