「言葉ダイエット」の即効性に期待して研修を打診
――ルネサスエレクトロニクス、およびルネサスグループ連合について概要を教えていただけますか。
鈴木:ルネサスエレクトロニクスは日立製作所、三菱電機、NECの半導体事業が一つになって2010年に生まれた会社で、国内に複数の拠点を持っています。私の所属するルネサスグループ連合「本社・武蔵地区支部」(研修を実施した2020年時点では「武蔵地区支部」)は、その中の本社及び武蔵事業所の労働組合として活動していて、約2600人の組合員がいます。労働組合の役割の一つに組織強化・活性化を目的とした組合員への教育(研修)があり、私はそのセミナーの企画・開催をしています。
――その一つとして「言葉ダイエット」研修を企画されたということですね。
鈴木:はい。技術的な研修は会社で行っているので、組合ではビジネスパーソンの業務に役立つ普遍的なスキルを伸ばすという観点で、「タイムマネジメント」や「コミュニケーション」といったテーマの研修をこれまで行ってきました。
『言葉ダイエット』を知ったきっかけは、青山ブックセンターで橋口さんがゲスト出演するイベントにたまたま参加したことです。橋口さんがその時に話していた、「(無駄の多い文章で)相手の時間を奪うことがもっとも失礼だ」という言葉が響きました。普段、仕事の中でうすうす感じていたポイントがお話の中に散りばめられていて、この本の内容を会社の人たちにも知ってもらえれば、もっとコミュニケーションが円滑になるんじゃないか?この本に書いてあることを実践するだけですぐに改善することが多そうだ、と感じたんです。
そこから「労働組合で研修をやりたい」とツイートしてフォローいただいたので、すぐに依頼のDMを送って快諾いただいて…という流れでした。
橋口:僕が『言葉ダイエット』を書く上で一番大事にしたのが、読んだ直後から使える実用書にするということだったんです。だから、即効性がありそうだと受け取っていただけたのは、非常にありがたいです。
感じていた課題はメール上での「コミュニケーションの行き違い」
――橋口さんの話を聞いてピンと来たということでしたが、鈴木さんは普段、業務の中でどんな課題を感じていたのでしょうか?
鈴木:単純に「わかりにくいメールをもらうことが多いな」と思っていました。あとは自分がCcに入っているメールで「すれ違っているな」と感じたり。その一方で、ルネサスの武蔵事業所は当時リモート勤務が7割であり、メールでのコミュニケーションは増えていました。今後も社員のコミュニケーションはメールが中心になる。だから、メール上の言葉で齟齬が起きるのを改善したい思いがありました。
橋口:そのお話を鈴木さんから事前に聞いていたので、研修時にはメールの部分の解説を厚めにしてお話をしましたよね。
――研修全体の構成は、どのようなものでしたか?
橋口:本をベースに構築しつつ、本には載せられない実際のダメなメールの文面など、より生々しい実情に即した内容でお話ししました。あとは、この本が出版されてからコロナ禍になり、zoomなどでのオンラインミーティングやSlackなどの打ち合わせはますます増えました。しゃべり言葉以上に書き言葉で端的に短く表す重要性が増えていたので、コロナ禍ならではの内容(注:研修が行われたのは2020年11月)も盛り込みました。
420名の受講者それぞれの多様な「気づき」につながる
――全部で何名くらいの方が研修を受けられたんですか?
鈴木:オンラインで約420名が受講しました。組合員のエンジニアを中心に、会社から管理職にも案内してもらったので、関心を持った人たちが幅広く参加してくれたようです。実は、研修が終わった後に、「参加できなかった人にも内容を共有したい」という声もあったので、こんなまとめのスライドを作って共有もしました。
橋口:ありがたいですね。このシート、めちゃくちゃよくできてますよ!
――受講した方々からは、どのような声があったのでしょうか?
鈴木:たくさんの感想が寄せられていて、まとめきれないくらいですが…例えば「自分が発信したメールは読んでもらえる前提で書いていたが、そうではないと初めて気づいた」「相手が嫌な思いをしないよう気を回して書いていたつもりが、却って時間を奪って失礼だと言われて意識が変わった」などの声がありました。「これからはわかりやすい文章を書こうと思う」と言ってくれた方がたくさんいます。
――それは、素晴らしいですね。冒頭でおっしゃっていた“即効性”については、その後いかがでしたか?
鈴木:アンケートの感想を見る限り、参加者にはすぐに実践できる内容だったと感じています。ただ、その後目に見えて明らかな変化というのはなくて。アンケートの中にも、「させていただきます」を自分だけやめようとしても、周りが使っているとなかなか辞めることができない、という人もいて。失礼があってはいけないというほうに重きを置いたり、全てを丁寧にしないと気が済まないという人が一定数いるので、なかなかそこに目に見える変化を起こすのは難しいものだなと感じています。
橋口:おっしゃる通りで、本は売れても日本から「させていただきます」はなかなか無くならない。それは僕の力不足です(笑)。ただ一方で、文章が変わったという以上に「気持ちが楽になった」という感想はよくいただきます。それまでは、ひたすら嫌われないように卑屈にしていたのが、別に嫌われてもいいじゃないか、そこを気にするより仕事を達成することの優先度の方が高いんだ、と言われて楽になったという声です。
言葉にまつわる課題はどんな組織でも共通している
――文章だけでなく、仕事に向き合う姿勢みたいなものに変化があったということですね。
橋口:特に若い人から言われる機会が多いです。若い人って、世代的にも会社のポジション的にも、いろいろな人に気を遣わないといけないですから。自分らしく働けるようになったという声をもらいます。
今回の研修の話からは離れてしまいますが、僕は広告会社の人には「言葉ダイエットをすれば競合プレゼンに勝てますよ」という話を声を大にして言いたいんです。実際、ダラダラした文章を書いて絶対勝たなきゃいけない競合プレゼンに負けた経験があるので。要は「失敗できない」という意識が空回りすると、自分の不安を埋めたり、何か言ってきた人の顔を立てるために文章を足していってしまうんですよ。そうすると、幕の内弁当みたいな文章になって、競合だと如実に負けます。
これは広告会社の話ですが、ルネサスさんも他の企業にお邪魔しても、やっぱり言葉についてみんな同じような課題を抱えていると感じるんです。この本や僕の講演がお役に立てる機会は多いのかなと思います。
鈴木:「言葉ダイエット」は、今回だけではなくて今後も取り上げられればと思っています。いま、外部の研修サービスを使って、月替わりでテーマを決めてオンラインの講座を皆で見てディスカッションするという取り組みもしているんです。前回の研修は人数も多かったので座学のセミナー形式でしたけど、今後は「言葉ダイエット」のような伝える力をテーマに双方向で学び合う取り組みもできたらと思っています。
橋口:ありがとうございます、ぜひやりましょう。
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