ニチバンが展開する絆創膏ブランド「ケアリーヴ」シリーズが好調だ。治癒促進タイプの「ケアリーヴ治す力」は2012年3月の発売から3年で7倍以上の売上を達成。さらに、2024年現在は絆創膏市場3年連続売上数量No.1*を誇る。ヒットの裏側には、「ケアリーヴ」が発売当初から販促施策のベースとして継続するサンプリングがあった。
*インテージSRI+ 絆創膏市場 シリーズ計 2021年4月~2024年3月 販売数量
これまでの絆創膏からの脱却 素材と品質で勝負に出た
──「ケアリーヴ」の開発背景も改めて教えてください。
浅井:発売は1997年。開発時には、絆創膏のコアユーザーである女性に、絆創膏の不満や使い方についてヒアリングしたそうです。「はがれやすい」「傷口を濡らしたくないのに、濡れてしまう」などの意見があったと聞いています。
当時の絆創膏といえば塩化ビニルが主流。伸びないし、はがした後に肌が白くふやけることが、当たり前でした。でも、その当たり前が、ユーザーの不満だったわけです。従来の絆創膏から脱却するべく開発されたのが、塩化ビニルではなく高密度ウレタン不織布でつくる「ケアリーヴ」でした。
ですが、素材にこだわると価格が上がってしまうんです。当時、絆創膏は安価で大量に売られる商材でもありました。価格を高くすることによって、市場に受け入れられるのかどうか、当時の営業も不安に思っていたと聞いています。しかし、我々は品質で勝負に出たというのが、開発の背景です。
富田:ユーザーの皆さんが絆創膏に対して持っている隠れた不安を解決するために、かなり力を入れて時間をかけて開発したのが「ケアリーヴ」です。先ほども述べたように、単価は通常のものより高いのですが、それでも品質の良いものをつくればきっと選んでいただけるだろうというポリシーで、発売に至りました。
発売時から続けるサンプリング 数百万回の利用機会をつくる
──品質の良さという強みを知ってもらったり、「一度使ってみてもらう」ためにはプロモーションが必要です。「ケアリーヴ」ではこれまで、どのような施策に注力してきたのでしょうか。
浅井:発売当時から絶えず続けているのが、試供品のサンプリングです。これが「ケアリーヴ」における販促活動のベースになっています。発売当時は、他社より売価が高くてなかなか手に取っていただけないのではないかという懸念がありましたが、品質の良さを理解してもらうためにも「1回使ってみてもらうこと」が重要でした。つまり、トライアルを促す必要があったということです。当時、富田は入社2年目の営業担当で、試供品を用意して、ドラッグストアで自ら配布したこともあったと聞きました。
富田:当時、絆創膏のサンプリングを行う企業は前例がなかったと認識しています。なので、お店に理解してもらうのもかなり難しかったのを覚えていますね。お店へサンプルを届ける活動はもちろんですが、自ら店頭に立って配ることも多かったです。
実際に配布しているサンプリング。
──サンプリングはどのように配布するのが主流なのでしょうか。
浅井:ドラッグストアが基本ですね。お客さまが絆創膏をお買い求めになるのは、ドラッグストアが主流です。流通さまのご協力をいただきながら、店頭で配っていただくのが一番オーソドックスなサンプリングですね。
富田:量で言うと、毎年数百万枚ほど用意してサンプリングを行っていますね。それを発売当時から今までずっと実施してきています。数百万枚×20何年なので……。単純計算でも、かなりの数を配布してきていることがわかっていただけると思います。
浅井:「ケアリーヴ」の特長の1つに、リピート率の高さがあります。まさに、1度使っていただいた結果、品質の良さを理解してもらったからこそ起きていることだと感じていますね。このような「ケアリーヴ」の特性を鑑みても、サンプリングは新規獲得にも欠かせない手法だと考えています。一度使ってもらうことで、「また使いたい」「買いたい」と思ってもらうことを狙えると言いますか。これからも「ケアリーヴ」のベースとして続けていきたい販促施策ですね。
売れているのに認知が低い 絆創膏ならではの事情と課題
──「ケアリーヴ」の販促のベースは、サンプリングで培ってこられたのですね。その他に、注力なさっていることはありますか。
浅井:2013年頃からは、テレビCMも出稿するようになりました。現在も継続的に注力している施策になっています。目的は「ケアリーヴ」の認知獲得ですね。サンプリングは、購買に繋がっている施策と確信しているのですが、「ケアリーヴ」の認知はまだまだ低いのが現状なんです。
──購買はされるのに、認知は低い。マーケティングで言われるカスタマージャーニーの定石とは少し外れていますね。
富田:絆創膏は、他の商材と比較しても少し特殊でして。「絆創膏」ではなく、固有のブランド名で呼ばれることが多いんですよ。地域で呼び方が変わったり……。皆さんも思い当たる節があるのではないでしょうか。そのため、絆創膏は認知と販売のシェアが驚くほど合致しないことも多いのです。
浅井:こういう絆創膏ならではの事情もあって、「ケアリーヴ」という名前を刷り込む必要があり、テレビCMを強化している次第です。ですが、気をつけないといけないこともあります。その地域の呼び方になっている固有のブランドがCMを行っていると思われてしまっては本末転倒なんですよ。むやみやたらにブランド名の認知を獲得するためにCMを打つのではなく、世界観や姿勢などをひっくるめて覚えてもらえるようなクリエイティブを意識しています。
CM「貼ってうれしい、治ってうれしい篇」。ブランド名の認知獲得を図る。
──これから「ケアリーヴ」をどのようなブランドにしていきたいとお考えですか。
浅井:絆創膏といえば「ケアリーヴ」だと想起してもらえるくらいの認知獲得を目指していきたいですね。販売数量No.1だけではなく、圧倒的な認知があるブランドに育てていきたいと思います。
富田:実は「ケアリーヴ」は韓国にも進出していまして。韓国でもおかげさまでかなりのシェアをいただいている状況です。他の国でも通用するという手応えを感じてきているところなので、海外展開も視野に入れ、アジアの中でも認知を獲得できるように成長させていきたいと思っています。
※本記事は月刊『販促会議』11月号 連載企画「ヒットの仕掛け人に聞く」で掲載されたものを再編集したものです。