先月、僕はツイッターで知り合った仲間たちと「牡蠣(カキ)の会」を催した。フレンチレストランを貸し切り、旬の牡蠣を楽しんだわけだが、驚いたことに、参加メンバーの19人は誰一人として、キャンセルも遅刻もなかったのである。
普通、仕事絡みの飲み会でも、20人近くの規模になれば、2、3人は急な仕事で遅刻や欠席者が出るものだ。それが、仕事でもないのに皆、約束をちゃんと守ってくれた。
なぜ? ――おそらく、趣味の会だからである。
かつて、日本人は仕事人間だった。高度経済成長期、日本人の労働時間は年間2200時間を超え、残業や休日出勤は当たり前だった。それが、今や1800時間。アメリカとほぼ同じ水準だ。気が付けば、僕らは案外、“趣味人間”になっている。OLらはウイークデーにワイン講座に通い、歴史好きは毎週末、旅に出かける。あるワードを検索すると、普通の会社員なのに、プロ顔負けの知識を披露するブログに引っ掛かるケースも少なくない。もちろん、彼らは無報酬でそれを行っている。
俗に「好きこそものの上手なれ」というが、最近、そんな趣味に対するモチベーションをくすぐるマーケットの事例をよく見かける。彼らは好きなことなら、時間やお金を惜しまないからである。
例えば、熊本城は「一口城主」と銘打ち、城の復元費用の寄付を呼び掛けたところ、既に総額は4億円を超えたという。城主は「城主証」がもらえ、天守閣の「芳名板」に名前が記載される特典だ。AKB48の商法は、まさにそれを逆手に取ったものだろう。選抜メンバーを決めるファン投票企画「総選挙」の投票用紙や握手券をCDに封入することで、ファンの高校生が10枚も20枚も買っている。
そうそう、最近、一番驚いたのは、千葉県の「いすみ鉄道」の運転士募集だ。訓練費用の700万円を自己負担することを条件に募集したところ、6人が応募し、4人が採用されたという。恐らく皆、筋金入りの鉄道好きだろうが――それにしても700万円はすごい。
趣味が人命を救うこともある。毎年2月に開かれる東京マラソンには、「ランニングドクター」と呼ばれる医師ランナーが約50人参加する。彼らは参加者たちと並走し、何か異変を見つけたら、すぐに駆けつけ、応急処置を行う。実際、タレントの松村邦洋さんをはじめ、これまで心肺停止になったランナーがそれで一命を取り留めた例は少なくない。一刻を争う場面で、並走する医師に勝る処方はないのだ。これなど、ランニング好きの医師の“趣味”に頼ったものである。彼らも、人命救助と趣味を両立できるので、喜んで参加している。
趣味を侮るなかれ。
先日、タレントのさかなクンが、絶滅したとされるクニマスを発見した。水産大学への進学も叶わず、学界では異端だった彼が、「魚好き」という趣味が高じて、並み居る専門家たちを差し置き、一大発見したのである。
草場滋「『瞬』を読む!」バックナンバー
- 第6回 「不況は不況、僕らは僕ら。」(12/14)
- 第5回 「そこに山ガールがいるから」(12/7)
- 第4回 「マジメ化する若者たち」(11/30)
- 第3回 「選択肢のないシアワセ」(11/22)
- 第2回 「特別な1日より、ちょっと素敵な365日」(11/16)
- 第1回 「『ソーシャル発』は直接民主制」(11/9)