テレビ自体がソーシャルメディアに
例えば私見で言うと、最も巨大で影響力があり、しかし変化を促されているテレビの「リノベーション」は、デジタル化とネットワーク化によって次のような変化として起こる。
- テレビ 上でのアプリケーションマーケットの登場
- テレビのソーシャルメディア化
米国ヤフーやサムスン、オペラ・ソフトウエアなどはテレビ上で動作するアプリの発表をここ数年、行っている。例えばテレビを見ている際、「ウィジェット」ボタンを押すと複数のアプリが表示され、中から天気予報のアプリケーションを選ぶと、ネットから最新の情報をとってきて表示してくれる。あるいは放映されている番組と連動したアプリもリリースされるようになる。
グーグルが発表しているグーグルTVは、ユーチューブほか、ネット上の動画と放送コンテンツを一括して検索するという部分が注目されているが、最もケアすべきはアンドロイドベースのTVユニットであるということであり、将来的にはスマートフォンでの「アンドロイドマーケット」同様に「テレビ画面上で使うためのアプリ」を購入するためのアプリケーションマーケットが登場する可能性があるということだ。詳細は避けるがそこに新しいテレビビジネスモデルが生まれる可能性が大きい。これが(1)のリノベーションである。
そして(2)は(1)と同じくして起こるものである。現在でもiPhone(アイフォーン)やアンドロイド携帯でツイッターやミクシィ、フェースブックを利用している人は多いが、テレビ上でこれらのソーシャルメディア対応のアプリが動作するようになり、テレビの画面を通して人々がつながることになるだろう。
例えば、フェースブックでのLike(いいね)ボタンのように、友人が「番組」につけたLikeをもとに新しい番組を発見することができるようになったり、あるいは、いま見ている番組について友人のみならず、知らない人たちも含めて、ツイートを共有できるようなインターフェースが、アプリを通じて提供されるだろう。今でも同様のことは、テレビと携帯を使えば可能。しかし表示のされ方、コメントの入力の仕方が多様化することで、番組を通じての「つながり方」が変化するのは間違いない。結果、テレビ自体がソーシャルメディアになりうる。
これらはWeb2.0ブーム以降の各Webサービスの「API公開」が可能にするものである。APIが公開されていれば、ネットにつながるデバイスであれば、パソコンや携帯でなくてもそれらの「恩恵」を受けることができる、デジタル化する従来メディアはこれらを取り込めれば「リノベーション」できるのだ。
昔持っていた価値を取り戻す
従来メディアは=マス(大衆)という存在を対象にしてきたメディアである。その大衆の「集まり方」が「つながり方」になり、 これまでとは違った集合体を構成している。しかしこの「つながった人々」に対応する機能の出現が、例えばテレビであれば街頭テレビの時代、居間で家族でテ レビを見た時代を復活させ、「共通の話題」形成を促進することになるだろう。昔持っていた価値を新しい機能で取り戻す、そして新しいメディアとして再生する「リノベーション」の時代。こうしたメディアの変化がこの10年、至る所で起こるはず。僕はこんな面白い時代に広告やメディア、マーケティングの仕事ができることについて、ほんとに幸せを感じる。こんな機会、活かすしかない。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
- 第6回 B to Cのマーケティングは、B into Cのマーケティングへ(12/20)
- 第5回 セグメンテーションからコネクションへ(12/13)
- 第4回 コンテクスト・プランナー:2(12/6)
- 第3回 コンテクスト・プランナー(11/29)
- 第2回 メディアとは何か(11/22)
- 第1回 何が「メディエイト」するのか(11/15)