エンゲージメントは広告企画を増幅する
1982年から『宝島』で掲載されていた「株式会社日広エージェンシー企画課長中島裕之」によるカネテツデリカフーズの「啓蒙かまぼこ新聞」は、今思えばまさに『宝島』という雑誌のエンゲージメントを逆に生かした連載型広告だった。中島裕之氏、つまり中島らも氏はかまぼこに興味を持たない若者達に対してあの手この手でアイロニーたっぷりに広告で若者とかまぼこを結びつけようとした。『宝島』だからできた、という言葉が当てはめることができるのであればそれは『宝島』が読者とのエンゲージメントを持っていたからではないか。
このメディアの持つエンゲージメント、というものは雑誌に限ったものではない、と思う。例えば、1991年4月1日に岡田直也+大貫卓也という2人の天才によって世に出された衝撃的なとしまえんの広告『史上最低の遊園地』。もしこの広告が新聞広告としてではなく、ポスターとして駅内に掲出されているだけであったとしたらきっと話題にはなっていなかったように思う。新聞だから、きっと話題になったのだ。新聞は「信頼のメディア」、「正確な情報を伝えるメディア」だとされている。そこに「嘘」「パロディ」を持ち込んだ。読者と新聞とは信頼関係というエンゲージメントのもとに成立しているからこそ、この広告が衝撃的であったに違いない。各種媒体、ないしは媒体の中のコンテンツなどの持つ「エンゲージメント」は広告企画を増幅する術になりうるだろう。
プランナーは広告枠の価値を引き出す視点を
さて、今回は簡単に「メディア・エンゲージメント」という視点について解説したが、このある種の媒体力が今後も成立するためには以下の前提条件がある。
- 媒体社が自らの「ブランド力」を読者・視聴者視点から生み出し、見直し、それを維持し続ける努力をすること(「~だから」と言われる努力)
- プランナーが媒体の広告枠を単にターゲットとリーチする「プレースメント(場所)」とだけ考えるのではなく、その媒体の持つコンテクストや読者/視聴者との結びつきをどのように活かすかを考えること
この2つが成立すればおそらく「メディアをいじる」ことはもっと楽しくなるはずなのだが、残念ながらネット広告を中心として、媒体における広告枠の価値を過小評価する傾向が業界内に見受けられる。もちろん媒体側がそのパワーを高める努力も必要。しかし、特に広告代理店サイドが媒体側に責任を押し付けるような傾向を目の当たりにすることが多い。そうではなく、もっと「メディアを活かした」企画をプランナーが出せるようになればいいのだが、と思う。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
- 第7回 注目すべきは従来メディアのリノベーション――メディアが本当に変わるのは、これから10年(1/4)
- 第6回 B to Cのマーケティングは、B into Cのマーケティングへ(12/20)
- 第5回 セグメンテーションからコネクションへ(12/13)
- 第4回 コンテクスト・プランナー:2(12/6)
- 第3回 コンテクスト・プランナー(11/29)
- 第2回 メディアとは何か(11/22)
- 第1回 何が「メディエイト」するのか(11/15)