ユーザーの興味関心が広告枠を作る
「検索連動型広告」を理解するうえでもっとも重要なポイントは、「広告枠」を生み出しているのはユーザー自身であるということだ。(日本でも再創刊される)『WIRED(ワイアード)』という雑誌の編集者であったジョン・バッテルという作家・ジャーナリストが『The Search』という本の中で次のような言葉で検索エンジンのことを説明している――検索エンジンは、ユーザーの意図や関心のデータベースである(the database of intentions)。データベースとは「情報 information」の集積のことを指したわけだが、そもそも検索エンジンの場合は様々なサイト内に書かれている情報が集まってはいるものの、それらから情報を導き出すのはユーザーの何かを探したいという衝動である。その衝動が集まっているのが検索エンジンだというのだ。それゆえ検索結果画面で出現する広告についても、ユーザーの意図や関心にあったものでなければならない。
(実はグーグルが最初に提供した広告スペースは今と同じように検索結果画面に出るものではあったが、普通のテキスト広告であった。それが後に今のように検索結果に関連性の高い広告というコンセプトのもと現在のようなものが開発された)
検索連動型広告は「キーワードに関連した広告が出るから効果が高い」という理解をされている。もちろんこれも間違いではない。しかしより本質的に理解をするのであれば、「(ある事柄について)消費者の興味関心が高いタイミングに関連した広告を出せるから効果が高い」と言ったほうがいいだろう。広告主は単に「広告枠」を買いたいのではない。自社の商品・サービスに興味を持ってくれそうなターゲット消費者に対して広告を出したいのだ。「メディアビジネス」ではなく「オーディエンスビジネス」へ。広告ビジネスに迫られる変化、広告主の広告へのニーズ・真実を、検索連動型広告をちゃんと解釈することで理解することができるだろう。
新しい広告主が広告マーケットを伸ばす
GDPの1%市場と言われる広告業界。その根拠となる数字は電通発表のものに頼るのだが、ネット以前は既存のマス4媒体とSPが中心に構成された数字で、マスの比率が非常に高かった。換算される数字は媒体の売り上げとなるので、数字としてあげられるような「大きなメディア」とそれらを購入できる「大きな広告主」によって構成されたのが日本の広告費の構成だったように思う。ネット広告の分野でも当初は大手の広告主が多かった(もちろん当時はまだまだネットが理解されていなかったので、少数ではあったが)。
一方、検索連動型広告の出現は「新しい広告主群」を生み出したと考えている。ご存知のようにクレジットカード一枚あれば広告出稿が可能だったし、非常に安い広告費でマーケティングを始めることができたので、それまで「広告主でなかった」事業者が続々と新しく出現した広告市場に現れてきたのだ。そしてこれらの広告主がいるからこそ、検索連動型広告をはじめとする「マッチング」的な広告ビジネスが成立する。ユーザーの興味によって生み出される広告枠を埋めることができるほどの広告の出稿がなければ、広告の「精度」も上がらない。例えばあるキーワードについて関連した広告が出たときにたった一つの広告しか出ていないか、複数の広告が出ているかでは、「情報として」の広告の精度は大きく変わるのだ。
ネット上で新たに生まれた広告ビジネス=「検索連動型広告」を中心にしたグーグルの広告は、「イノベーション」だった。次回は、グーグルがチャレンジし、僕自身がもっとも日本へ導入したかった「リノベーション」の部分について、記述しようと思う。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
- 第10回 グーグルから学んだこと――広告ビジネスのイノベーション、そして広告人としての個人的興味:1(1/24)
- 第9回 消費者行動の再考--コンテクストプランを考えるうえで(1/17)
- 第8回 メディアの「エンゲージメント」を活かすという視点(1/11)
- 第7回 注目すべきは従来メディアのリノベーション――メディアが本当に変わるのは、これから10年(1/4)
- 第6回 B to Cのマーケティングは、B into Cのマーケティングへ(12/20)
- 第5回 セグメンテーションからコネクションへ(12/13)
- 第4回 コンテクスト・プランナー:2(12/6)
- 第3回 コンテクスト・プランナー(11/29)