かつて、「アンノン族」と呼ばれる若い女性たちがいたのをご存じだろうか。
1970年代、創刊されて間もない女性誌のan・anやnon-noを小脇に抱え、同誌が頻繁に特集した風光明媚な地方の名所旧跡――軽井沢や清里、金沢などへと出掛けた女性たちの呼び名である。
ちょうど、国鉄のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」も、大阪万博が終わった70年10月にスタートしており、「美しい日本と私」のコピーが象徴するように、若い女性たちが地方を訪れる行為がトレンドになった。古い寺院を訪れる行為がオシャレになり、今でいう「パワースポット」巡りの走りでもあった。
しかし――80年代に入ると、ファッションやグルメ文化が時代のトレンドになり、パルコや東京ディズニーランドのブームとも相まって、若者たちの関心は「東京」へと向かい始めた。以来、地方のリゾート地が一時的に脚光を浴びることはあっても、時代の主役は一貫して東京である。
一方、地方は郊外にショッピングセンターができるなどして駅前はシャッター通りになり、若者たちは高校を卒業すると都会へと流出し、年々寂れていった。時の政府や地方の首長が「地方分権」を叫んでも、実態は伴っていない。
ところが――ここへ来て、かつての「アンノン族」を彷彿させるように、女性誌がこぞって地方の特集を組み始めたのだ。背景には「歴女」の増加や、ネット通販の「お取り寄せ」人気、女子高生たちの「方言」ブームなどがある。温泉地ばかりではなく、個性的なホテルの紹介記事も増えてきた。地方の美術館といった文化的な施設も脚光を浴びつつある。そう、今や都会の女性たちの足は、確実に地方へと向かっている。いや、地元の女性たちも黙ってはいない。全国各地で発刊される「美少女図鑑」は、今や発刊されると同時に品切れになると聞く。テレビ番組の「秘密のケンミンSHOW」に至っては、ご当地が特集される県では、30%以上の驚異的な高視聴率を稼いでいる。
そんな中、昨年12月、東北新幹線が新青森まで延伸し、この3月からは九州新幹線も開業する。南北へと更に伸びた新幹線で、地方への関心がますます高まるのは間違いない。それでなくても、近ごろは「鉄女」なる鉄道好きの女性が増えつつあり、様々なローカル線を乗り継いで、彼女たちが地方を旅する姿もよく見られる。今年は「3連休」が昨年よりも3回も多く、計8回。JTBによると、国内旅行の需要予測は、昨年より1.2ポイント増の3億200万人を見込んでいるとか。
1泊2日の忙しい旅でなく、2泊3日でのんびり地方を満喫してはいかがだろうか。
草場滋「『瞬』を読む!」バックナンバー
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- 第10回 「左党だってスイーツ男子」(1/18)
- 第9回 「あえて今、星に願いを。」(1/11)
- 第8回 「アンチエイジな『女子』の時代へ」(1/4)
- 第7回 「趣味を侮るなかれ。」(12/21)
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- 第5回 「そこに山ガールがいるから」(12/7)
- 第4回 「マジメ化する若者たち」(11/30)