林 信行のモバイルマーケティング注目事例(第4回)

最後にものをいうのは「質」

林 信行(ITジャーナリスト兼コンサルタント)

本連載もこれが最終回。これまでの内容を駆け足で振り返ろう。1回目は筆者の仮説に基づき情報過多の時代、人々に関心を抱かせ行動を起こしてもらうための3つのアプローチ(時間軸、親密軸、空間軸)を紹介した。2回目は大量の情報を快適にブラウズしてもらい、中から欲しい情報を見だしてもらう手法がiPadではやりやすいことを紹介した。前回は、1回使って終わりではなく、「また使ってもらう(=retention)」の面で工夫しているアプリケーションを紹介した。

では、最終回のテーマは? これは「質」以外に考えられない。EvernoteのCEOはよく「今はいいものがあれば確実に広まる時代」と力説している。逆の見方をすればiPhone用30万本、iPad専用でも4万本以上あるアプリで、人々に認めてもらう最終兵器は「品質」以外にはない。

最近、そのことを再認識させてくれたのが無印良品がリリースしたノートアプリの「MUJI NOTEBOOK」、カレンダーの「MUJI CALENDAR」と旅行情報の「MUJI to GO」だ(いずれも国内トップクラスの開発者の手によるもの)。特にNOTEBOOKとCALENDARは、既存の人気ビジネスアプリと比べても、品質の点で堂々と勝てる出来映え。日常使いする気になれる、まさに「良品」――一体、これ以上の宣伝があるだろうか。

前回も紹介した短編ムービーのようで、実はしっかりとしたインタラクティブカタログの「tabio」のアプリも、平凡社の電子巻物「くらしのこよみ」も内容や仕上がりが素晴らしく、これなら人に勧めようという気にさせる。

短期間で話題を盛り上げる目的でない限りは、クライアントを説得してでも高い「質」を追求して欲しい。その方が仕事としてもやりがいがあるはずだ。また日本のクリエイティブ品質の高さをiPadという扉を通して世界に知らしめれば、それが国力の向上にもつながるかもしれない。(「宣伝会議」2011年2月1日号から)


(はやし・のぶゆき)
1980年頃からアップルの動向に関心を抱き、90年から本格的な取材活動を始める。技術的取り組みやものづくりの姿勢、経営、コミュニティーづくりなど、多方面にわたり取材。『iPadショック』(日経BP)など著書多数。

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