訴求すべき商品にしっかりと向き合い表現を考えるプロセス
富永勇亮(AID-DCC)
少し前の作品になるのだが、今回は「Tabio Slide Show」を紹介したい。靴下専門店であるTabioのオンラインショップ内のムービーコンテンツである。しかし、ただのムービーコンテンツではない。UNIQLOCKの仕掛人として有名なProjector田中耕一郎氏と映像作家の児玉裕一氏による、Webというメディアでムービーを見せるという事を徹底的に意識して作り上げられた作品である。
まず素晴らしいのが、廊下を靴下を履いて滑るという、子どもの頃に誰もが一度は経験したことのある体験を美しく視覚化した商品の見せ方。そして、iPhone、iPadでお馴染みのフリックを取り入れたインタラクション。ついつい最後まで見てしまう、少女二人の物語性の高い状況設定。
コンテンツの拡散を重視したコミュニケーション設計をする広告が多い中、商品と向き合い、商品の見せ方を考え尽くした結果、オンラインショップ内の動画カタログという存在をエンタテインメントに昇華し、販売に繋げることができたのではないかと思う。
拡散という名の話題の瞬間風速ばかりに目を向けるのではなく、商品の本質に目を向け、最適な表現方法を考えるプロセスの重要性を改めて考えさせられる。
流行の広告キーワードに振り回され、手法で金縛りになった頭で、商品を見つめても新しいアイデアは浮かんでこないし、最良の結果など望むべくもない。
多様なメディアと表現手段があり、それを組み合わせることで最大の効果を発揮しなければならない現在だからこそ、まずは、ニュートラルな視点で、訴求すべき商品やサービスと向き合うことが重要であり、メディアや技術縛りで、表現を後回しにしてはいけない。伝えるべき事象を見定めた上で、施策の目的を考察し、ターゲットに即した表現方法を考え、それを実現できる技術を採用するプロセスが大切なのだ、とインタラクティブ広告に関わる人は再認識してほしい。(「宣伝会議」2011年2月1日号から)
※毎月1回掲載(全4回)、次回は2011年3月1日掲載予定
(とみなが・ゆうすけ)
2000年エイド・ディーシーシー設立に参画。2010年、東京オフィスを開業、制作チームと共に企画・演出・プロデュースを行う。主なクライアントはAdidas、KDDI、JR東海、RICOHなど。