デジタル化でマスメディアにも波及か
「ABテスト」という言葉を聞いたことはあるだろうか。複数のデザインやクリエーティブを試して最も効果的なものを選択する手法である。インターネットではクリック率など成果指標の計測が容易なので、例えば交互に違うものを表示してどちらが有効であるかが瞬時にわかる。素材はAとBの2つが最低必要なことからそう呼ばれている。インターネットの初期から行われてきた手法であるが、各種メディアが出てきた今、見直してもよい手法ではないかと思っている。
まずテストと言いながらも、テスト環境ではなく実施環境で行われることが特徴である。したがってこの手法は、デジタル化していない媒体では行いにくい。新聞や雑誌のような紙媒体は印刷して配布する必要がある。ラジオやテレビのCMも、放送局に事前に納品された素材がスケジュールに則って配信される。しかし、地上デジタル放送完全移行に象徴されるように各種媒体がデジタル化してくると、このABテスト実施の可否が広告キャンペーンの成否に大きくかかわってくるようになると筆者は考えている。
例えばデジタルサイネージに広告を掲出する場合、独自のURLや検索語を素材ごとに設定することにより、特に携帯経由のアクセス分析によって効果検証が可能であると考えている。その検証によりより、効果が高いほうの配信に切り替えていくことが可能になる。雑誌や新聞も「iPad(アイパッド)」などの電子媒体に配信されるものは、その効果がほぼリアルタイムで検証できるので同じような手法が可能であろう。
広告制作の考え方が変わる
そして、テレビもデジタル化されれば素材を複数入稿して効果の高い素材に切り替えるというロジックを組むことが可能になるのではなかろうか。さらに、そのデータを属性データベースとの相関関係(性別、年齢、地域、時間帯等)を活用して配信することにより効果が劇的に高まる可能性がある。
インターネットでは過去から行われているこの手法を実施するためには、クリエーティブの考え方を変える必要がある。一つの素材が大ヒットする狙いで投資を集中するよりは、多くの素材の中で一番効果の高いものを選択することに投資をシフトしなければいけないからである。従来の広告クリエーティブ制作は、そのような考え方をしていないのではないだろうか。野球のチームにたとえると、ホームランを狙うスター育成を追求するか、確実にヒットを打てるバッターを複数そろえるのかの違いともいえる。ABテストはナレッジ蓄積型であるので、複数年にわたり検証した効果を織り込むことができるというメリットがある。
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