アメリカの元祖トレンド・ウォッチャー、フェイス・ポップコーン女史が「コクーニング」(繭化現象)なる言葉を考案してから、すでに30年以上が経つ。
彼女曰く「『コクーニング』とは繭化現象。人々が心地よく、くつろげる隠れ場所、自分の生活をコントロールできる最後の場所――“家”へと向かう現象である」。
今、世の中を見渡すと、ポップコーンの予言通りになったと認めざるを得ない。僕らは車やブランド品を買い控え、内向きの実用品へと投資を切り替えている。IKEAでお気に入りの家具を選び、40インチ以上の液晶テレビを購入し、快適な眠りのためなら布団や枕への投資も惜しまない。東急ハンズでプロ仕様のキッチン道具を購入し、流行りの3行レシピ本で料理の腕もそこそこ上達した。熱帯魚も含めてペット人口は毎年増加の一途で、ベランダを利用したコンテナガーデニングは、もはやブームを超え、定番化している。
昨年、ある調査会社がクリスマスの過ごし方を20歳代から50歳代の男女に聞いたところ、「家で過ごす」もしくは「ホームパーティー」と答えた人が全体の6割を占め、レストランで外食と答えた人はわずか1割程度だったそう。確かに、時間制でクリスマスメニューに限定された窮屈なディナーよりも、インターネットのお取り寄せサイトで自分が食べたい料理を注文して、気の置けない仲間たちや家族と、閉店時間を気にせずにいられるホームパーティーのほうが楽しいに決まっている。
さて、そこでバレンタインデーである。かつて「女性から男性への愛の告白デー」として認知されていた日も、近年はもっと広範囲な意味――「チョコレートの祭典」といった位置づけへと変化している。実際、今や異性にチョコをあげる女性は4割に留まり、同性同士でチョコを交換し合う女性は7割にも上るという。
つまり、意中の異性を待ち伏せして、告白しながら渡したのは過去の話。今やバレンタインといえば、友人宅に女性同士で集まり、お取り寄せサイト等で仕入れた一押しチョコを各人が披露しつつ、味見し合う――そういう“情報交換”の日へと変化している。お目当ての異性のための手作りチョコにしても、ホームパーティー気分で、皆で作ったほうが多彩な道具も揃うし、アイデアも色々出て、楽しいに決まっている。
製菓業界の販促キャンペーンとして普及してきた日本のバレンタインデーだが、ここへ来て、その主導権はユーザー側に移ったと見ていいだろう。
草場滋「『瞬』を読む!」バックナンバー
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- 第9回 「あえて今、星に願いを。」(1/11)
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